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ゆる〜りな人

人を良くすると書いて、食。

お店は、みんなの笑顔が集まるコミュニティーの場です

古屋 賢悟さん(天然創作料理とほうとうの店「元祖へっころ谷」 店主)


神奈川県藤沢市の国道467号沿いにある『元祖へっころ谷』は、山梨県の郷土料理であるほうとうを食べられる、首都圏では数少ない店です。けんちゃんこと古屋賢悟さんは2代目経営者。発酵食品である味噌や野菜をたっぷり使うほうとうは、健康食として再評価されています。
元祖へっころ谷のほうとうは、そのヘルシーさにさらに磨きをかけたオリジナル品。そして、お店のもうひとつの目玉は、けんちゃんのすばらしい笑顔と心配りです。

損得抜きで動く大切さを世話焼きの父から教わった

ほうとうとは、具体的にはどんな郷土料理なのですか?

煮込みうどんの一種と思ってください。味付けは味噌が基本ですが、いろいろなバリエーションがあります。定義の条件として、必ずカボチャが入ることとなっていますね。甲斐の国、つまり山梨県の郷土料理ですが、武田信玄さんの領地だった静岡県や群馬県の一部にも同じような煮込みうどんの文化が残っています。

うちは両親とも山梨県出身で、集団就職世代なんですよ。当時は同じような境遇の人がいっぱいいて。同県人が集まれる場がほしいねという話になったとき、じゃあ、自分たちがほうとうの店を作ると手を挙げたんです。

当時はテレビの旅番組もグルメ雑誌もないし、ほうとうなんて山梨県外ではほとんどの人が知らなかったと思います。博打というか、無謀ですよね(笑)。でも、店は不思議と繁盛しまして。ほうとうが珍しかったからというよりは父親の人徳なんですね。そのことがわかったのは、自分自身が経営に加わった24歳のときでした。

自家製豆乳と神奈川県産ブランド豚・高座豚のそぼろを使った「豆乳たんたんほうとう」は一番人気。たっぷり入った野菜は、すべてけんちゃんの眼鏡にかなったもの。味噌の一部やラー油は店の手づくり。だしも天然で産地の店から取り寄せている。徹底して「体と心へのやさしさ」にこだわり、菜食主義の人のために肉・魚・卵・牛乳を使わないメニューも用意している。

 

どんなお父さんですか。

とにかく面倒見がいい。仕事は7回変わっていますが、地域の役回りなどをいくつも引き受けていました。周囲は神奈川でほうとうの店なんか開いてもうまくいくはずがないと思っていたはずです。

けれど、近所のおばちゃんなんかがどんどん知り合いを連れて来てくれ、その人がまた別な人と食べにくる。決して経営がうまかったわけではないんですが、両親と一緒に仕事をして、うちは人のご縁で商売が成り立っていたんだと知りました。

いつも損得勘定抜きで動く人で、たとえば初めて食べに来たお客さんが雨に降り籠められて困っていたりすると、店を抜けて車で駅まで送っちゃうんですよ。人から相談を受けることも多くて、仕事中でも作業を中断して心当たりのある知り合いに電話をして紹介する。世話焼きなものだから、みんな古屋さん、古屋さんと集まってくる。

人のつながりってすごく大事なことなんだな。自分が店を預かる立場になって、しみじみ感じました。

子供の頃から店を継ごうと思っていたのですか。

まったく考えていませんでした。僕が継ぐことになったきっかけは結婚なんです。当時付き合っていた彼女…… 今の妻ですが、大学生で、卒業後は出身地の銀行に就職することになっていたんですよ。

当然ながら猛反対されて。僕、当時は仕事していませんでしたから。好きなパンクロックバンドのライブを手伝ったりしていて、バイトでお金を稼いでは使い果たすという繰り返し。理解者は向こうのお母さんだけ。せめて定職についてくれればということで両親に相談したら、うちの店で働くことになっていることにすればいいと(笑)。

 

生まれてきた子の顔を見て食べることの大切さに気づく

店の方針である健康主義は、お父さんの時代からですか。

当時はとくにそういうことを謳ってはいませんでした。野菜をたくさん食べるのだから健康に悪いわけがない、という程度の感覚ですね。うちの食卓もベースは野菜と味噌醤油なので、僕も小さいうちは健康な食生活を送っていました。

でも、そのうち小遣いをもらうようになる。バイトで稼ぐようになる。そうすると、ジャンキーなものを食べだすんですね。朝からハンバーガーとフライドポテト。昼はコンビニの油っこい弁当やチェーン店の丼もの。スナック菓子も大好きでした。

食べものと健康との関わりを意識するようになったのは、はじめて子供を授かった時です。生まれたばかりの長女の顔を見たとき、ふと、この子はどんなふうに大きくなっていくのかなと考えたんです。その瞬間、あっ、体を作っているのは食べものだった! と気づいたのです。後に教えられたことですが、食という漢字は、人を良くすると書きますよね。

そしてもうひとつ気がついたことがありました。子供にだけよいものを食べさせることって、逆に難しいんじゃないか。親である自分が生活を正しく整えていかないと子供の健康にはつながらないと。その日から、毎日2箱吸っていたタバコもやめましたし、食のことだけでなく環境のことも気になりだしました。

いろんな運動や勉強会に参加し、しっかりした考えを持ったさまざまな人たちと意見を交わすなかで、今のへっころ谷の方針を作ってきました。

ほうとうは手打ち。小麦粉は委託生産で、岩手県産の南部小麦と、埼玉県産の農林61号をブレンドしている。近年、小麦食品のアレルギーが問題になっているが、けんちゃんは小麦グルテン(たんぱく質)の組成変化がひとつの原因ではないかと考えている。へっころ谷で使う2種の小麦は、いずれも放射線照射など強引な技術を用いた改良をしていない、小麦アレルギー問題など聞くことのなかった時代に作出された古い品種だ。

人は憤りを抱えているうちは目がつり上がっている

食べるものを中心に生活を正していくなかで、自分自身の中で何か変化は起きましたか?

めっちゃ、体が楽になりました。マクロビオティックも勉強して、実践するうちに血液サラサラってこういう感覚なのかと思えてきました。今までの食生活がどれほど体に負担をかけていたかということを実感できたんですが、半年くらいはまだ本当に変わってはいなかったですね。

体が楽になったぶん、不健康なものは悪だという思いが強くなり、飲み会なんかに行っても友達に説教をしていたんですよ。まだタバコなんか吸っているのか。そんなものばかり食っていたら病気になるぞって。僕は昔コワモテで、奥さんの友達なんか最初に会った時は泣き出しましたからね。あとで聞いたら、すごく怖そう、冷たそう、遊んでいそうな人に目えたって(笑)。

食生活を切り替えて体が軽くなっても、しばらくは目がつり上がった状態だったんですよ。つまり、なぜみんなも変わらないんだと怒っていた。僕は終始なにかに憤っている人間だったんですね。1年半くらいたってからでしょうか。こういうことは人に押し付ける筋合いのものではないんじゃないかと考えるようになったのは。

それで、久しぶりにコンビニ弁当を食べてみたんですよ。わかったんです。おいしくできていて、みんなが選ぶ気持ちも理解できると。それからです。否定をしない、押し付けない。選択の問題なのだから、僕は僕の提案をすればいいだけのことだと。マクロビオティックも突き詰めていくと動物性食材を摂らなくなるんですけれど、僕は僕なりに自分の体に聞いて判断し、それをお客さんに伝えることにしました。

ですから、うちは卵や肉を使ったメニューもありますし、ビーガン(完全菜食)の人向けのメニューもあります。  押し付けない大切さに気づいてから、けんちゃん、顔がやさしくなったねと言われるようになりました。久しぶりに街で会った友達の中には、すれ違っても僕とわからなかったやつもいます(笑)。

「がんばらないけどなまけない」をモットーに、食で人を幸せにする方法、楽しく生きるためのアイデアをいつも考えている。へっころ谷という店名は「へんぴな山奥」という意味あいだが、じつは造語。父の幼なじみの国会議員で、元アナウンサーの矢代英太さんがデビュー当時使った「山梨県ひなびた郡田舎村字へっころ谷出身」という自虐ギャグからとった。

 

今後、店をどんなふうにしていきたいですか。

じつは、規模を今より小さくしたいんです。席数が少なくても成り立つ経営。要はリピーターです。リピート率を高めるということはお客さんともっと密にコミュニケーションをとるということ。お客さんに学び、自分が大切だと考えることを楽しく伝えていく。外食産業の未来は交流にあるんじゃないかと思います。

「ゆる〜りな人」山本 哲農さんへの質問

Q.

発酵食品にこだわる理由はなんですか?
A.
味噌や醤油、お酒など日本を代表する発酵食品は、麹、乳酸菌、酵母のようなさまざまな微生物の連携によって作られます。
じつは僕たちの健康も腸内や皮膚の表面で共生する微生物たちの関係性で保たれています。発酵食品作りでも健康管理でも、大切なのは微生物の声に耳を傾けること。聞くことは語ることより大事だということを、僕は発酵から教わりました。
たとえば環境問題を考えるときも、押し付けになると賛同は得られません。自分はなぜ伝えたいのか。みんなが好きだからだと考えるようにしたら「けんちゃん、楽しそうだね」と一緒に活動してくれる人が増えました。

取材日:2018年10月


Profile

古屋 賢悟 さん

1970年神奈川県藤沢市生まれ。24歳のときに両親が経営する山梨県の郷土食「ほうとう」の店を継ぐ。安心安全、旬、身土不二の考えのもと、自家菜園の野菜や近隣生産者の農産物、天然発酵の調味料にこだわった手作りほうとうを提供する。
心の健康にまで心をくだいたメニューは評価が高く、とくに女性のリピーター客が多い。味噌や納豆など発酵食品づくりのワークショップも人気。趣味はパンクロックと心身統一合気道。愛称はけんちゃん。

手打ちほうとう「元祖へっころ谷」
神奈川県藤沢市亀井野3丁目30-1
TEL:0466-82-1702
11:30-14:30(土日祝は15:30まで)
17:00-22:30
定休日/火曜日
小田急線六会日大前駅から徒歩10分

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