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ゆる〜りな人

何を望み、何を望んでいないか。

消費者ひとりひとりの声がプラスチック問題の未来を決めます。

市原 壮一郎さん(環境・コミュニティー活動団体 Ripples(リップルズ)顧問)


アウトドア業界に身を置く市原壮一郎さんは、自然が大好きな行動派です。このインタビューの少し前も、神奈川県茅ケ崎市の自宅から、サーフ・スポットとして知られる静岡県下田市の白浜までの120kmを、6日間、野宿をしながら歩き通してきたばかり。しかも背中にサーフボードを担いで。ユニークなその旅には、愛する海へのメッセージが込められていました。

多くの人はプラスチックが多すぎると思っている

サーフボードを担いだお遍路のような旅。傍から見ると面白そうですが、けっこうきつかったのではないですか?

思いつきのアイデアだったんですけれど、やっぱり甘かったですね(笑)。下田まで歩き通すことはできましたが、足の裏にできたマメが潰れて肝心のサーフィンができませんでした。激痛で板の上に立てない。一緒に歩いてくれた同僚はなんともなかったんですが。

きっかけはライフスタイルの見直しです。それまで下田方面までサーフィンに行くときは当たり前のように車を使っていました。でも、海のプラスチックごみ問題にかかわるようになって、日常の中で当然のように享受しているすべてのものを、一から見つめ直す必要があるんじゃないかと思えてきたんです。

ガソリンや電気エネルギーを使えば、遠い距離でもあっという間に移動できてしまうのが今の社会。じゃあ、自動車がなかった時代の移動の感覚ってどういうものなのか。体でつかんでみたくなったんですね。

茅ケ崎から下田までサーフボード担いで歩いてみた。120kmを自分自身のエネルギーだけで歩いてみたことで、物質文明のありがたさも、底知れない怖さも肌で実感することができた。未来の地球を考えたとき、私たちがとるべき行動とはなんなのか。二者択一だけではない、第三の選択軸の可能性も模索していきたいと語る。

左/ボードに「プラスチックを使わないシンプルな暮らしを!」というメッセージを掲げて歩いた。
右/シューズ選択を間違え、足の裏がマメだらけに。山と海は大ベテランだが、これだけの距離を歩く旅は初経験。

 

得たものはありますか?

いろんな経験ができました。まず、風景が車で走るときとまるで違いました。歩くと、ふだんは見えないものがゆっくり目に入ってくるんですよ。もうひとつは交流です。目立つので、どこへ行っても「何やってるの?」と声をかけられました。

ローカルのサーファー、商店街のおじちゃん、おばちゃん。どうせ目立つならばと、サーフボードの背中に「NO PLASTICS LIVE SIMPLY」というステッカーを貼って歩いたんです。海を守るためプラスチックをなるべく使わない生活を提唱していますと説明すると、お茶をごちそうしてくれたり、お店の場合だとサービスをしてくれました。

多くの人が、今の暮らしの中にはプラスチックが多すぎるという思いを持っていることが確認できました。

プラスチックは、とてもすぐれた生活素材でもあります。

革命的な素材です。軽く丈夫で、さまざまな形や質に加工することができる。機能的なすばらしさをいくつも持っているうえに、値段が安い。そこが問題なんですね。

便利で安いから使い捨てできてしまうのです。たとえばレジ袋。有料にしているお店もありますが、多くは無料でもらえるのが現状です。

きちんと回収できるのなら問題は少ないはずですが、現実には回収できていない。僕たちはサーファーなので、いつも海でごみを目にします。ビーチクリーン活動をしているところはそれなりに少ないですが、人の目につきにくい場所にはうんざりするほどたまっています。

こうしたプラスチックごみがどこから来るかというと、陸上なんです。風で飛ばされたり投げ捨てられた結果、川を通じて海に流れ込む。つまり消費者の意識や心がけの問題なんです。

 

食物連鎖を通じて体に入るナノプラスチック

海のプラスチックごみが引き起こす問題とは?

これまで指摘されてきたのは、海の生き物が誤って食べ、消化器官や呼吸器官を詰まらせて死んでしまう問題でした。近年深刻視されているのは、海を漂流するうちに波や紫外線で風化し、細かくなったマイクロプラスチックの問題です。

定義としては直径5mm以下のプラスチック片のことを言うのですが、プランクトンほどのサイズのナノプラスチックと呼ばれる破片は、イワシのような小魚や、カキやアサリのような貝類が餌を吸い込むとき一緒に体内に取り込まれます。プラスチックに含まれている可塑剤は油性なので、同じく油性の有害化学物質を吸着しやすいと言われています。

日本人が大好きなシラス干しやイワシの丸干しにも、微細なプラスチック片が入っている可能性があるわけですね。

直接的な健康被害も不安ですが、プラスチックに取り込まれた化学物質が環境ホルモンのようなふるまいをすると、人間を含む生物の生殖に影響するかもしれません。使い捨てのツケは、結局自分たちに帰ってきてしまうんですよ。

僕たちはなるべくナチュラルなものを子供たちに食べさせたいと思っていますが、たとえば命の源である塩の場合も、海水から素朴な方法で作る自然塩を使うことが難しくなってしまうかもしれません。

この間、ある団体が鎌倉で開いたワークショップに参加して、あらためて慄然としました。見せてくれたのは、地元の浜の砂なんですよ。その砂を顕微鏡で覗くと、3つのタイプの粒が見えました。

鉱物粒である砂と、貝殻が砕けて砂になったもの。そしてマイクロプラスチックです。色とりどりの樹脂の破片が、砂や貝殻とおなじくらいのボリュームで混じっているのを見て、ショックを受けました。

漂着ごみには漁業資材も多い。海外から流れ着くものも少なくない。海のプラスチック問題は経済にとどまらず、倫理・哲学の問題でもある。社会のありようを映す鏡であることを、身近なところから伝えていきたいと市原さんは語る。

 

企業にだけ環境に配慮しろというのは消費者の傲慢

どうすれば、現状にブレーキをかけられるでしょう。

僕は問題を考えているうち、原因はプラスチック自体にあるのではないという気がしてきました。僕たちが選んだ暮らしが、マイクロプラスチックを生み出しているのです。

『ナショナルジオグラフィック』の記事によると、世界で生産されたプラスチックの4割は一度使われただけで捨てられ、そのうち年間約800万トンが海へ流れ出ているそうです。何がいちばん怖いかというと、そういう事実を知らずにプラスチックを使い続けてきたことです。

消費や経済のあり方を変えていくしかない。ただ、企業にだけ環境に配慮しろというのは消費者の傲慢で、まずは自分たちのライフスタイルをサステイナブルな方向にシフトしないと、問題は先送りされるだけです。何を望み、何を望んでいないか。ひとりひとりが声をあげていく必要があります。

その声は、どうすれば発することができるでしょうか。

いろいろなやり方があると思います。サーフボードを担いで歩くのもひとつの方法です(笑)。僕たちの場合、いらない布を集めてみんなでバッグを縫い、それを鎌倉のいろいろなお店に置いてもらってみんなで使いまわす活動をやっています。個別包装をしない量り売りのマルシェなども開いていますが、これも支持されています。

海から拾ってきたプラスチックごみでアートを作るワークショップは、問題を伝えるのに最適な方法だと思います。子どもって素直で、心や感性で理解するので本質が伝わりやすい。その純真さには大人を啓発する力もあります。親は子供が学んできたことに耳を傾けますからね。

小学校で授業をやったときは、感想文を送ってきてくれました。家で買い物のルールを作ったとか、水筒を持つようにしましたとか。そういう手紙を読むとうれしいし、励みになりますね。

左・右上/「楽しく啓発」が市原さんのモットー。みんなで回収した海辺のプラスチックごみを素材に手づくりアートを楽しむワークショップは親子連れに人気。
右下/出会いがあるごとに配布しているステッカー。海の4大プラごみを表示。その後、ファストフード店がストローを紙製にしはじめるなど世界的な動きになりつつある。

 

「ゆる〜りな人」 市原 壮一郎さんへの質問

Q.

プラスチック問題をなくしていくために、 ひとりひとりができることはなんですか?
A.
トイックになる必要はないと思います。たとえば僕が勤務しているパタゴニア横浜・関内店では、スタッフが「ごみゼロ1週間チャレンジ」という活動をしています。
使い捨てのフォークやカップを1週間使わないでみる。無理なくクリアで来たらもっと長く続けてみる。そんな感じでいいんじゃないかと思います。
日本人ひとりあたりのペットボトル飲料の消費量は年間160本にもなるそうです。それを聞いて、僕はペットボトル入りの炭酸水を買うのをやめました。そのかわりにソーダマシンを買いました。ゴミは出ないしコスパもいいので優秀です。

取材日:2018年7月9日


Profile

市原 壮一郎 さん

環境・コミュニティー活動団体 Ripples(リップルズ)顧問

1971年神奈川県湯河原町生まれ。子供の頃から海・川での遊びや登山に親しみ、高校時代はパンクロック、大学時代は旅とロッククライミングに明け暮れる。カナダ、オーストラリアに留学後、アウトドア用品の店で働きながらサーフィンを楽しむ。
現在は横浜にあるアウトドア用品メーカーの直営店に勤務。その傍ら、海のプラスチックごみ問題の啓発活動に取り組む。ライフスタイル、経済のありようにまで踏み込んだ生活者目線のメッセージが共感を呼んでいる。

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