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ゆる〜りな人

変わったのは社会の側のモノサシ

放置竹林問題の解決方法を、当事者の立場で研究する

山本 哲農さん(ガイアシステム株式会社代表/みなみいずたけ炭ひろば運営者)


利用されなくなった竹林が荒れ、農地や森にまで根が伸び広がる「放置竹林」が社会問題になっています。暗く鬱蒼とした竹林はもはや筍を掘る人もおらず、イノシシ、シカのねぐらやえさ場に。竹林をうろつく野生動物は、次第に人家近くの畑や田んぼにも出没するようになります。

なにかと悪役視されることの多い竹ですが、山本哲農さんによると、本来は有用な植物で、日本人の暮らしをあらゆるところで支えてくれたそうです。

少し前まで暮らしの道具のほとんどが竹でできていた

深い山ですね。この一帯が山本さんの土地ですか。

ざっくり言いますと、いま見えている尾根の内側は全部うちの山です。竹林と、炭を焼いていた時代の名残の里山、そして柑橘や梅の果樹園からなります。農業は僕で3代目ですね。土地はひいおじいさん代からのもので、養蚕や製糸業を営むために必要な薪炭の山を求めたそうです。

おじいさんは米の品種改良を手がけるほど研究熱心な農家で、晩年はこの南伊豆でリンゴの栽培にも挑戦していました。親父は静岡県の柑橘試験場の技師でしたが、30歳過ぎに帰ってきて新たに山を開墾してミカンの樹を増やしました。

竹林の面積は昔から広いですよ。僕の子供の頃はバブル景気の真っ最中で、観光バスがこの山の中まで何台も来ました。筍掘り体験です。温泉宿泊とセットになったツアーが大人気だったんです。狭い道なのでちょくちょく渋滞したのを覚えています。僕は6歳の時には筍掘りのガイドとしてお客さんを山へ案内していました。

その頃はまだ竹も資材として売れました。海の漁師さんが養殖用の筏を組むときに使いました。丈夫でしなやか、しかも中が空洞でよく浮きます。発泡スチロールの浮力体が普及するまで、全国どこの筏も竹でできていました。今もわずかですが、伊豆には竹を使ってくれている漁師さんがいます。

光が林床まで差し込んでいる山本さんの竹林。竹の年齢配分まで計算して管理されている。「組織もそうでしょう。おじさんばかりではうまく機能しない。新陳代謝を図らないと竹林もいい筍が出なくなるんですよ」。

 

筍にしても資材にしても、竹をよく利用した時代は放置竹林という問題はなかったのですね。

ちょっと前まで、暮らしの道具のほとんどが竹でできていました。台所のザル。農作業のカゴ。ホウキ。壁の骨材にも割り竹が使われていましたし、筍の皮はお肉やおにぎりを包む、今でいうラップでした。モノサシも竹でできていましたね。竹は利用価値が高かった、つまりお金になったので、ほったらかしにされるようなことはなかったのです。

筍の場合は、ほんとうにおいしいものを収穫しようと思ったら、適度に間引いて竹林全体に光が差し込むようにするとともに、肥料を入れる必要があります。竹の生育が早いため、家族経営規模ではすべてにまで手が行き届かないのが現状ですが、可能な限り食材や竹材、竹炭、土壌改良資材、有機肥料として有効的に活用する努力は続けており、その継続が経済の循環や地域の活性化… たとえば筍産地としての再評価や美観地としての竹林につながるのが理想です。

国産筍は、中国産の筍が安く輸入されるようになって売れなくなったと聞いたことがあります。

それも大きな原因ですね。農家のやる気がだいぶ削がれました。でも、筍が売れなくなっている原因はそれだけでもないんですよ。ひとつは消費意識の変化です。昔は、筍というのは太ければ太いほど値打ちがあって喜ばれたものです。今は逆に敬遠されています。

買っても重くて持って帰るのが面倒。大量の皮がごみになる。茹でることのできる大きな鍋がない。茹でても、そもそも家族が少ないので食べきれないと。 だから、僕たち農家も発想を変えないといけません。これからの方向性としては食べきりサイズの小さな筍にシフトすることです。

それと品種。うちの場合は現在6種類の筍を栽培しています。3月から6月までの一般的な春筍のほか、8月と10月に収穫できるものがあります。異常気象や獣害の影響もあり、まだまだ期間や量が不安定。それらの安定化と、希少性が高い冬場の収穫が今後の課題です。

掘りたて、茹でたての風味をそのまま保存できる加工品を作ることができればなお理想です。今の水煮よりグレードの高い保存技術が確立できれば、輸出も夢ではないと思っています。伊豆半島南端部の筍は昔から味のよさで定評があったので、可能性は高い。

左/現場での炭化作業。穴は掘らず、竹林内の開けた平らな場所で焼く。経験値を上げれば、こんな素朴なやり方でも歩留まりよく炭にすることができる。右上/ボリュームいっぱいの竹も、炭化させると写真のようなわずかな嵩に。運搬効率と使い勝手がよく、燃料、土壌改良材、調湿材とさまざまな使い道がある。右下/土に竹チップ、竹炭を混ぜて発酵させたもの。微生物の繁殖力が強く、果樹や野菜のすぐれた土壌改良資材になる。竹林に戻すと筍もおいしくなる。

 

補助金に頼らず伐り続ける動機を、自分たちで作る

放置竹林問題の報道をどう見ていますか。

さっき竹のモノサシの話をしました。竹は縦方向のくるいがないので計測の基準にされてきたわけですが、僕は違う意味で竹ってモノサシ向きだと思うんです。竹が増え問題だと言われていますが、竹が狂い始めたんじゃない。ずれてきたのは世の中のほう。

元に戻す余地はまだあると思っています。伐る動機を再び作ればいい。でも、補助金を投入するというのはスマートではありません。なぜかというと期限付きなので。補助金が切れたとたん、また放置されてしまうような取り組みは健全ではないでしょう。

竹を有効活用するために力を入れているのは堆肥化と竹炭化です。伐って処理することで新たな利用価値を生みだす。小さくてもいいから確実に経済へ乗せる。竹は糖分やミネラル分が多く、チップに砕いてから発酵させると良質な有機質肥料になります。竹炭は土の酸性化を防ぐアルカリ資材で、細かい孔が無数にあるので土壌微生物のすみかにもなります。

一部販売も始めましたが、現状では堆肥も竹炭も量が足りていません。自分の竹林や果樹園に撒くだけで使いきってしまうからです。とくに竹林に撒くと、竹が喜ぶのがわかります。すごくいい根が伸び、筍や竹の質が格段によくなります。全体的な効果を測るにはまだ数年かかりますが、よい手ごたえがあるので僕自身は伐り続けるモチベーションになっています。

それにしても、急傾斜地での作業はさぞきついでしょう。

工夫したのはそこです。従来は太い竹を1本ずつ肩に担いでトラックにのせ、工場の窯まで運んでいました。数年前からは発想を変え、山の中で焼くようにしました。ごく原始的な方法です。炭としての歩留まりは悪くないと思います。運搬がとても楽になり、トータルではプラスです。

チップの加工も、機械を山へ運んで現場で粉砕すれば省力化がはかれます。かつては無理だったことが便利な機械の登場で楽にできるようになっています。まだ竹専用の作業機械というのは少ないのですが、こういうものが増えてくれば、続く人が出てくるはずです。

獣除けの柵。出入り自由な道路側の木の葉や下草は、シカに食べられてしまっている。

南伊豆の中でも独特な赤土層が、筍の味に好影響を与えていると思われる。伊豆半島も少し北に行くと、筍の味やアクの強さが変わるのが不思議だという。

 

プラスチックと竹。
どちらが 正しいかというものでもない

山の持ち主ではない私たちは、どうすれば協力できますか。

国産のおいしい筍も味わってもらいたいですが、それよりなにより、竹という存在にもっと注目してもらいたいですね。今、海を漂うマイクロプラスチックが問題になっています。先ほども言いましたように、かつて、今のプラスチックの用途のかなりの部分を担っていたのが竹という天然素材でした。

とはいえ、石油と天然素材のどちらがいいか、正しいかという論でもないと思うんです。すでに僕たちの暮らしの中にプラスチック製品は深く浸透しているし、農業も林業も石油エネルギー抜きに成り立たない現実があります。

ただ、将来のビジョンを考えたとき、竹という選択肢があることも忘れないでいてほしいんです。たとえば楽器。竹ならではの音色というものもあります。こういうところから竹の魅力に気づいてもらえると嬉しいですね。

「ゆる〜りな人」山本 哲農さんへの質問

Q.

地方では獣害や担い手不足も問題になっていますが…
A.
これらは放置竹林の問題と根底でつながっています。炭や木材や筍がよい値で売れた時代、山は人の手入れが行き届き、獣も簡単には出没できませんでした。
若者が外へ稼ぎに出る必要もありませんでした。昔のようにとはいかないまでも、山の資源を経済化する方法はあるはずです。私が最も注目しているのは竹炭。最近、酸性雨のことがあまりニュースになりませんが、東アジアの経済成長で酸性雨はむしろ増えており、山の樹木や果樹にも直接的・間接的な影響が出ています。
竹炭は土壌の中和効果が高いので、環境保全の視点からもっと注目されるべきだと思っています。

取材日:2019年7月


Profile

山本 哲農 さん

1977年静岡県南伊豆町生まれ。家業の筍(竹材)生産、果樹園芸に従事する傍ら、全国各地で問題になっている放置竹林の解決策を現場の視点から実践的に研究している。竹を適切に管理していくためには地域コミュニティーの再生が必要。そのためには竹資源の新たな経済化と地方への共感が不可欠だという結論に達し、食や消費、環境意識の啓発を通じて、人と人をつなぐ活動にも取り組んでいる。

みなみいずたけ炭ひろば
静岡県加茂郡南伊豆町一条 TEL 0558-62-0755 FAX 0558-62-3797
竹炭、筍、果物等を販売。取り扱い店も多数。

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