自然・健康・安心 - からだによいもの、こころによいもの。スローヴィレッジ

ようこそゲストさま

いらっしゃいませ!ゲスト様 いつもありがとうございます

マイページ

平日 9:00~17:00(土・日・祝日休み)
通話料無料(携帯電話、PHSからもOK)

メニュー
ゆる〜りな人

子供とご飯も食べられない働き方よ、サヨウナラ

農薬・化学肥料不使用の農業に
挑戦して得た“小さな幸福”

小栁 信幸さん(南伊豆野菜「こやおや」代表)


さいたま市の旧与野地区。毎週第1土曜と日曜、典型的な住宅街の一角に「新鮮野菜」と書かれた可愛いのぼり旗が立つ。『南伊豆野菜』という手描きの木製看板と、その上に輝く虹色のペインティングも印象的。静岡県南伊豆町で、農薬や化学肥料を使わない農業を実践している小栁信幸さん(43)のアンテナショップだ。

売り場はわずか1坪ほどだが、開店前から通りがかりの人たちが興味深そうに立ち止まり、野菜を見ては質問をしていくのが印象的。さいたま市と南伊豆町とをつなぐ縁とはなんなのだろう。

アレルギーに苦しむ長男を 見て、
食の大切さを実感

通りに面していますが、もともと店舗ではありませんよね。

はい、普通の住宅です。じつは僕が25歳まで暮らした実家なんですよ。1階の一部を改装し、自分と仲間が南伊豆で農薬も化学肥料も使わずに栽培した野菜を販売しています。

この日並んでいたのは、里芋、小かぶ、さつまいも(シルクスイート、安納芋、紅はるか)、だいこん、赤だいこん、紫黒米、小松菜、コスレタス、クレソン、レモン、平飼い養鶏の卵など。にんじんジュースやまこも茶などの加工品もあった。自分が育てたものだけでなく、農薬や化学肥料を使わない農業に取り組む仲間たちが生産したものも一緒に販売することで、発信力を高めている。品目が多いので、小さな売り場ながらつねに棚が賑わっている。

 

搬入は車ですか?

高速道路を使って走っても4~5時間かかりますかね。すごく遠いというわけではないですけど、交通費がそれなりにかかりますから、仲間からの仕入れ代金などを引くと売れてもあんまりお金は残りません(笑)。でも、いいんです。僕たちの農業や暮らしに対する考え方、南伊豆という地域について知ってもらうことが、この売り場を作った第一の目的なので。

最初は南青山(東京港区)のファーマーズマーケットに出店するつもりだったんです。あそこはたぶん、日本で一番野菜の値段が高い場所です。安心安全で味のよい食材ならお金を惜しまないというお客さんが集まってくる。PRというか腕試しには絶好の売り場で、出店登録も済ませてあったんです。

ところがコロナ問題が起きてしまって。今までのようにわいわいがやがやと楽しく試食してもらうことができなくなりました。出店したとしても、一等地ですから駐車場代なんかも目が飛び出るほど高い。1日3000円とか。そう考えたときに思い出したのが実家でした。このあたりは1日車を停めても400円くらいです(笑)。

農業を始めようと思ったきっかけはなんだったのですか。

僕は実家を出てから大宮市に住んでいまして。美容師のアシスタントをしたり、工場に勤めたり、スノーボードがしたくてスキー場を転々としながら働いたり、けっこう気ままに生きてきました。

結婚して長男が生まれたんですけれど、アトピーと喘息がひどくて。僕自身も小児喘息だったので苦しさがわかるんです。かわいそうでね。アレルギーの原因として疑われているもののひとつは食べ物です。心配の少ないものに切り替えると同時に、自分自身がそういう仕事につけば勉強もできるだろうと、オーガニック食材を扱う会社に転職しました。

農業って面白いなと感じたのは、契約している農家さんのところの農業体験に参加したときです。月に1回ですが、朝から夕方まで土に触れていると気持ちが軽くなりました。体力はけっこう使っているのに、土の上だと不思議と疲れた感じがしないんですね。いい汗かいたなという実感があって心地いい。体にいい野菜を売るのも楽しい仕事だけれど、自分自身が土に触れて命を育てる生き方もいいなと思い始めました。

もうひとつの理由は家族との時間です。サラリーマンとして働いていると、忙しいときは家に帰っても子供の寝顔しか見られない。一緒にご飯を食べるとか、一緒に遊ぶって子供にとっても親にとってもかけがえのない時間だと思うんです。このままサラリーマンを続けていればお金のプレッシャーからは解放されるかもしれない。けれど、子供は僕との時間を共有しないまま大きくなってしまう。そういう人生でいいのかなと。

伊豆半島南端の南伊豆町を移住先に選んだ理由は?

妻は天然石の雑貨を作っているんですが、同じ埼玉県出身で自然が好きなんです。河津に友人がいたので毎年キャンプを兼ねて遊びに行っていました。伊豆半島の南部は海と山があり、気候も僕らが育った関東平野とは違うので新鮮でした。

移住を決めた動機はこの自然ですね。空気感が気に入ったというか。こういうところで子育てがしたいというのが理由。農業が最優先だったら選ばなかったでしょう。もっと平らで広い農地が借りられる地域へ行ったと思います。

スーパーに並ぶ野菜だけが野菜じゃない。
選ぶ楽しみをこの小さな店から伝えたい

 

今住んでいるのはどんなところなのでしょう。

最初の5年くらいは、今の畑から車で15分くらいの日本昔話にでも出てきそうな古民家を借りて住んでいました。薪ストーブを入れたりして、やってみたかった田舎暮らしは全部実現できたんですが、田舎の車での15分って遠いんです。ほぼノンストップなので。距離があると畑への往復がそれなりに大変で。家族と話し合って、畑に近い今の場所に中古の家を購入しました。

農地は田んぼが1反歩(※)、畑が3反歩です。借りて耕しています。地主さんは土地を相続されていますが住んではおらず、東京や神奈川にいらっしゃいます。耕さないで草刈りだけ引き受けている土地もあります。農地が草だらけになるとイノシシの巣窟になってしまうので、そういう管理受託も仕事の一部になっています。

※1反歩…農地の単位で約990m2。

畑に建てたお気に入りの作業小屋。畑はもともと田んぼだった。「傾斜地が多い南伊豆では、田んぼのあった場所っていちばんいい土地だったんですよ。平らで日当たりのいいところは、まず米を育てる場に充てたんですね」。そんな土地がありながら後継ぎが戻ってこない家は多い。“生き方としての農”を目指す、小栁さんたちのような若い移住者の存在は貴重だ。

 

自分で育てた野菜に、
自分が納得のゆく値段をつける

普段の販売はどうされているのですか。

南伊豆町の道の駅や直売所で販売しています。収穫量が多いときは地域の出荷場から市場流通に出すんですが、ほとんど値段がつきませんね。そもそも僕らのようなやり方で育てた野菜というのは、品種も含めて市場の求める規格には合わないんです。

市場流通制度は食の安定のためには大事な役割を果たしていると思いますが、功罪があると感じています。自分で育てた野菜に自分で値段をつけられないことが問題のひとつ。前日は100円だったのに、今日は60円になっているとか。でも、農家さんは同じ努力をしているんですよ。

残酷だなと思います。あれだと若い人は継がないだろうし、生産量を増やす以外に利益を確保する方法がない。でも最終的には、農地の広いアメリカや中国にはかなわないわけで。

自分の納得がいく値段を自分で付けられるのが、
今取り組んでおられる販売の形なのですね。

食物アレルギーは、市場原理が引き起こした農業の問題のひとつだと僕はとらえています。品種の多様性も犠牲になりました。世の中には文化と呼べるほど多種多様な野菜の種類があるのですが、一般のスーパーに並んでいるのは流通の都合に合わせて育てられたものだけです。

僕がこの小さな売り場で伝えようとしていることは、野菜を選ぶ楽しみです。安心安全なだけでなく、こんなに個性的な野菜があるんだということを知ってもらいたいのです。

僕はもともと人と話をするのは得意じゃありません。ひとりで黙々と作業をやっているほうが性に合っている。農業を選んだのにはそういう理由もあるんですが、自分が好きな野菜について話をするのは楽しいものです。以前に買ってくださったお客様が来て、おいしかったと言ってくれたときは、農業の喜びってこういうことだったんだ! と実感しました。

人生の宝物となるような時間を
子供と分かち合う

先ほどのお客さんは、南伊豆ってどこなの? とおっしゃっていましたね。

知らない方が多いんですよ(笑)。なので地図を貼って説明しています。誰に頼まれているわけでもないんですけど、少しでも僕が暮らしている南伊豆という地域のことを知ってもらいたくて、観光パンフレットなども置いています。店の横には、海岸で拾った流木を置いて自由に持ち帰ってもらえるようにしています。

今は理想の生活ですか。

自然相手の仕事なので経済的に苦しいときもありますが、充実しています。お天道様のリズムで働いていますから、子供たちと一緒にご飯を食べることも、遊ぶこともできています。そろそろ子供たちと海釣りも始めようかなと思っているんですよ。

最近、移住組の友達がはまっていておすそ分けをいただくんですが、魚も自給できたら楽しいですよね。  そうそう、今度4番目の子供が生まれるんです。全員男の子なんですけれど、彼らにとって人生の宝物となるような時間を分かち合いたいなと思っています」

「ゆる〜りな人」小栁 信幸さんへの質問

Q.

農薬も化学肥料も使わない栽培とは、具体的にどんな方法ですか?
A.
現在主流の農作物の栽培方法は、化学合成の農薬を適宜使って雑草や病害虫を抑えるとともに、野菜が窒素、リン酸、カリの三大栄養素を効率的に吸収できるように成分化した化学肥料を併用します。
一般的な技術として普及していることから慣行栽培と呼ばれます。それらを使わず、食物連鎖や生態系のしくみのなかで病害虫の発生をコントロールしたり、動植物由来の有機質肥料だけを使う方法が無農薬・無化学肥料の栽培です。有機栽培、オーガニック栽培などとも呼ばれます。この中にもさまざまな技術があります。
僕の場合は、雑草を肥料として有効活用することで、最終的には有機肥料すら使わなくてよくなるまで地力が高まる「自然栽培」を目標にしています。

取材日:2020年11月


Profile

小栁 信幸 さん

1977年埼玉県生まれ。美容学校卒業後、美容師アシスタントなど複数の仕事を経験。結婚後生まれた長男がアレルギーに苦しむ様子をみて、暮らし全般を見つめ直し、オーガニック食材を扱う会社に転職。8年前に静岡県の南伊豆町へ家族で移住し、2年間の農業研修を経て農薬・化学肥料不使用の農業を始める。 2020年7月から、さいたま市中央区の住宅街にある実家を改装した店舗で、月に2日、自分と仲間の育てたオーガニック野菜を出張販売。南伊豆の情報も発信している。

南伊豆野菜こやおや
《出店情報》
埼玉県さいたま市中央区八王子5-7-6(フードガーデン白鍬向かい)
毎月第1土日開店 9時30分~16時
Instagram  @koyaoyaoyasai
https://www.instagram.com/koyaoyaoyasai/?igshid=YmMyMTA2M2Y%3D

関連記事

特集記事