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ゆる〜りな人

役目を外してもなお心を打つ絵

イラストレーターという生き方の喜びと哲学

高田 茂和さん(イラストレーター)


スローヴィレッジで発行している会報誌『カラダこころ通信』の表紙や当ブログのタイトルにいる通称〝ゆる~りくん〟と呼ばれているこのキャラクターの生みの親が、企業広告や公共キャンペーンなどに存在感のあるイラストレーションを提供している高田茂和さんだ。

イラストレーションはその人そのもの

高田さんのイラストを見ると、どこか懐かしい感じがします。でも、昔という時間軸的な懐かしさではなく、誰の記憶の中にもありそうな風景や光景という意味です。
キャラクターも絵本の世界の住人のようではあるけれど、よく見れば街や公園、旅先で出会いそうな人たち。この作風はどのように確立したのですか。

イラストって描いた本人に似ていると思うんですよ。若い頃は背伸びをしたい、つまり早く認められたくて変に恰好をつけようとするじゃないですか。表現者としては野心を失わないことも大切なのかもしれませんが、僕の場合は、そういうものを年齢とともに削ぎ落とすことで、今にたどり着いたと思っています。

イラストレーションはクライアント(依頼者)の意図に合わせて描いていくもので、芸術・アートとは違います。つまり自分の作品ではあるけれどそうではない性格がある。イラストレーターはプロジェクトの重要なキャストですが、主役ではない。あくまで共同制作者です。

そういう枠組みの中でいかに自分らしさを見つけるか。イラストレーターを目指す誰もが最初に直面する大きな壁です。

オファーとしてのイラストの仕事と並行し、オリジナル作品も描き続ける。2年に一度の個展は、クライアントや仕事仲間に対してのプレゼンテーションの場でもあるという。2020年個展「DAYBYDAY」@SPACE YUI にて

 

絵を描くのは子供の頃からお好きだったのですか。

特にそういうわけでもなかったですね。生まれ育ったのはごく普通の家庭です。絵本や画材も買ってもらいましたが、特別に習い事をしたり、 美術的な教育を受けたこともありません。ただ何事も自由にやらせてくれる家庭環境でした。とにかく普通。その有難さに気付くのは随分後ですが。

絵を描き始めたのは大学卒業間際の就活のときです。経済学部だったんですが、当時は編集の仕事がしたくて出版社をいろいろ受けていたんですけれど、持病の椎間板ヘルニアが悪化して手術を受けることになったんです。当時は今と違い大手術。2週間寝たきりで、退院後も半年はコルセットをつけてじっとしている必要がありました。何もできないので、絵でも描いてみようと思ったんです。

就活はうまくいかない。実家の喫茶店を手伝いながらぶらぶらしている日々。そうした鬱屈をいつしか紙にぶつけるようになっていて、今思うと恥ずかしくなるような絵ばかり描いていました。

いつも「今の絵が最高」と思うんですが、後で振り返ると、まだ熱量が足りないなあと

 

見栄を削ぎ落とすことで自分の核をさらけ出す

フラストレーションをぶつけて心は晴れましたか。

だめでしたね。絵を描いている自分に酔いたかっただけだったのだと思います。もう捨てちゃいましたけど、自意識だらけの超ネガティブな絵で。人に見せるとか、心を動かそうという意識がまったくない。でも、そういう暗い状況から抜け出したいという思いだけはあって。そんなときに知ったのがイラストレーション青山塾の存在でした。

こういうところで正式に学べば、絵を描くことを仕事にできるのかな、という程度の動機でしたが、今も師と仰ぐ秋山育先生と舟橋全二先生たちから、イラストレーションとはなにかということを徹底的に叩き込まれました。

同期の塾生たちの意識の高さにも驚かされました。僕はハイキングに参加する程度のつもりだったのに、ほかの人はアルプス縦走とかヒマラヤ遠征の話をしている、そんな感じ。いつの間にか影響され、同じ頂上を目指したいと思うようになっていました。

イラストの仕事というのはどのように進行するのでしょう。

青山塾でまず教わったのは、イラストレーションは機能や役割を背負った絵だということでした。つまり目的がある。ただ好きで描いた絵はイラストレーションとは呼ばないのだと聞かされた時、はじめて絵で飯を食う技術の意味が理解できました。

僕の絵を見てくれ、というのは芸術やアートの世界。イラストレーターが描くものは、仕事をさせる絵なんですね。企業やプロジェクトが求めるイメージとか、商品や記事のニュアンスを視覚的に伝えるという役割を担っている。画家やアーティストというよりは職人。

かといって、依頼されたイメージをそのまま筆でなぞればいいわけではない。さまざまな約束事の中でも、画家やアーティストに負けないオリジナリティーを発揮するのが理想のイラストレーション。

よく先生たちに言われたのは、 〝機能や役割は大前提だけれど、そうした要素を外して見たときにも、魅力的なものでなくては人の心は動かない〟ということでした。

冒頭にお聞きした、削ぎ落とすということもそのための作業なのですね。

背伸びしていたなとか、世間におもねていたというような部分を削いでいくと、自分の核になっていたものが自然と見えてくるんですよ。ああ、自分がほんとうに好きだったのはこういう世界観だったのかと。

そこに同じ波長を感じる依頼者から声がかかれば理想的な仕事ができますが、やみくもに仕事を受けるだけでなく自分の絵にどんな仕事をさせるか、取捨選択をする必要もでてきます。

今が最高だと思っても後で振り返れば反省ばかり

役割や機能を託された絵がイラストレーションとのことですが、今回のような個展(※)は描き手にとってどんな意味を持っていますか。
※2020年9月に東京・南青山で開催

次のステップを見据えるための位置確認といいますか、その時点での総括ですね。仕事としてのイラストレーションは、先ほども言いましたように制約があります。これはデザイナーにしても、カメラマンやライターにしても同じだと思うんです。仕事の方向性が決まっていて、登山で言えばルートを歩く状態です。

でも、それに慣れてしまうのも怖いことなんです。突然、自由に登れと言われたときに頭の中が真っ白になる。誰も道を標してくれない状況になると何を描けばいいのか分からなくなってしまう。ですからたまには仕事という枠を外して描くことも大切です。そうした感性を維持する場が個展です。

個展を開くたびに感じるのはどんなことですか。

2016年から2年ごとに開いていまして、今回で3回目です。16年の作品、18年の作品、そして今回の作品を並べてみても、皆さんから見るとそれほど作風は変わっていないと思うんです。

でも、僕の中ではイラストレーションに対する考えがちょっとずつ変化しているんですよ。たとえばペンの線。4年前のものを見ると、まだ甘かったなと思うんです。もちろんそのときはよかったつもり。僕はそんなに絵がうまいわけじゃないので、描くものはリアルではありません。なんとなくグシャグシャしているのが個性といえば個性なんですが、そうしたタッチの中でも、この線はもっと工夫ができたなとか、構図も色も改良の工夫の余地があったというように見えてくるんですね。描いたときはこれ以上のものはできない、今が最高だという気持ちだったんですけど、振り返れば、熱量がまだ足りなかったと。

ただ一つできることは、その時その時の「想い」を込めて描くこと。純粋に描くことが楽しい、見てくれる人に喜んでもらいたい、褒めてもらいたい。その出発点が大事だと思っています。到着点はいつも描いた後に分かるものだから。次に描くものが最高傑作になれば、と想いながら。

スローヴィレッジで販売しているAll in One洗剤『オールシングス・イン・ネイチャー』のロゴデザインも高田さんが手がけたもの。製品の理念をどう絵として表現するか。それを考えるのもイラストレーターの仕事だ。

 

「ゆる〜りな人」高田 茂和さんへの質問

Q.

絵を上手に描く秘訣をこっそり教えてください!
A.
子供さんから尋ねられた時は必ず「上手に描かなくていいよ」と答えます。大人の質問には「練習すれば上手くなると思います」。絵はうまくてもヘタでも面白ければ良いんです。例えば、イラストレーションの世界ではヘタでも勝負できます。なぜなら写実的なうまさだけでなく描く人の個性や味で評価されることがあるから。上手に描くことより大切なのは、描くこと自体を楽しむこと。子供って幼稚園の頃まではみんな面白い絵を描くんですけど、学校に上がると同じようになってしまう。うまく描くことを期待されるからです。大人で絵を描くのが苦手だという人が多いのもそのせいかもしれません。とにかく自由に描き続けることが一番です。

取材日:2020年9月


Profile

高田 茂和 さん

1976年東京都生まれ。葛飾区在住。成蹊大学経済学部卒。大学卒業後に独学で絵を描き始める。その後イラストレーション青山塾で学び、明確に「イラストレーター」という職業を目指したのが30歳。現在は広告・雑誌・webなど様々な媒体の依頼に合わせ、イラストレーションやキャラクターデザイン、グッズを制作。2016年から定期的に個展を開催。爽やかでやさしい作風に人気がある。本誌『カラダこころ通信』のマスコットキャラクター“ゆる~りくん”の生みの親でもある。

Shigekazu Takada illustration
http://da-factory.com/

Instagram  @shigekazutakada
https://www.instagram.com/shigekazutakada/

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