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ゆる〜りな人

志のある小さな農園を支えたい

スペシャルティコーヒーが育むエシカル消費の理想形

葛西 甲乙さん(スペシャルティコーヒー専門店 27 COFFEE ROASTERS代表)


インスタントコーヒーに缶コーヒー、挽いた豆から淹れるレギュラーコーヒー。そのレギュラーコーヒーにもドリップ、サイフォン、エスプレッソなどさまざまな抽出方法があります。楽しめる場所も多彩。手軽な値段で淹れたてが飲めるコンビニも、シアトル系と呼ばれ今では街角の風景にもなっているカフェチェーンも人気です。

近年、そんな日本のコーヒーシーンに加わったのが「スペシャルティコーヒー」。湘南の辻堂で27 COFFEE ROASTERS(トゥエンティセブンコーヒーロースターズ)を経営する葛西さんは、その新しいコーヒー文化のパイオニアです。

豆の行き先のほとんどは経済論理優先の先物市場

あらためて思い浮かべてみると、コーヒーといってもいろいろなバリエーションがありますね。

はい、広いです。豆の品種、産地、品質のグレードなどにより作られたブランドもコーヒーのバリエーションです。コーヒーは世界で最も利用されている嗜好品で、ほとんどは先物取引市場を通じて売買されます。日本だけでも年間40万トン以上の生豆が輸入されています。

スペシャルティコーヒーというのは耳慣れない用語ですが、どのようなものなのでしょう?

世界トップクラスの、味に特化したコーヒーという意味で、1990年代のアメリカで興ったカルチャーです。いわゆるシアトル系と呼ばれる高級チェーンはコーヒーシーンを大きく変えましたが、もっと味を究めようという人たちがスペシャルティコーヒー協会を立ち上げました。

自分たちでテイスターやロースターを育て、国際的な品評会を行ない、その場の入札で生産者から適正な価格で購入します。従来は大きな基準だった豆の大きさや形といった外観にとらわれず、カップに抽出した風味だけで平等かつ厳格に審査します。日本では2003年に協会が設立されました。

さわやかな酸味と透明感、スムースな甘さ、そしてしっかり余韻のある味。スペシャルティコーヒーは、生産農家の栽培・精製技術、ロ―スターの焙煎技術、そしてバリスタの抽出技術からなる三位一体の味わう芸術だ。焙煎技術は世界中で日々進化。27 COFFEE ROASTERSでは、繊細な風味が引き出せる最新の熱風式ロースターを導入、併設のラボでコーヒー豆が持つ可能性を日々研究する。

 

淹れたときに誰もがおいしいと感じるコーヒー豆は、どのように生産されるのでしょうか。

コーヒーは先物品だと言いましたが、それはつまり、ほとんどがプランテーション型の大規模農業によって生産されたものということでもあります。生活必需品としてのほどほどの品質を満たしつつ、どれだけ効率よく量を生産できるかという商品です。

コーヒーは赤道付近のコーヒーベルトと呼ばれる地域で生産されますが、山岳地帯など条件が不利なところでは小規模な経営しかできません。こうした場所は高品質なコーヒーが実ることが知られていて、実際かなりよい豆を育てている農家もいるのですが、量がものをいう流通構造に飲み込まれ、買い叩かれているのが現状です。

昔からコーヒーにこだわりをもっておられたのでしょうか。

いや、じつは若いときはコーヒーが飲めなかったんですよ。おいしいと思わなかった。喫茶店に入ってもチョコレートパフェを頼んでいたくらいで(笑)。実家の売買をしたときの不動産屋からたまたま勧められたのが自家焙煎のコーヒー店でした。遠い親戚にもコーヒー業界の人がいたので話を聞いたら、コーヒー屋もお洒落でいいかなと思えてきました。そんな程度の動機です。

当時の自家焙煎の店は、趣味が高じた人が定年後に始めるイメージ。僕のような若者、しかも素人はいませんでした。商店街の店だったこともあり値段はあえて抑えたんですけど、売れませんでしたね。1日の売り上げがゼロから3000円という日もありました。

そんな中で出会ったのが、スペシャルティコーヒーという概念でした。小さなコーヒー屋が生き残る方法として、味をとことん追究するこの方向に賭けようと思いました。もともとすぐに走り出してしまう性格なんですよ(笑)。

個人経営の焙煎屋と小さな農家が国を超えてつながることにこれからのコーヒーの可能性があります。

 

今いちばんいい豆ができる産地がホンジュラス

店では中米ホンジュラスのコーヒーに力を入れていらっしゃいますが、理由はなんですか。

あくまで僕の判断ですけれど、ここが今、世界でいちばんよい豆ができる産地だと思います。2008年にたまたまホンジュラスの大会に参加しました。そのとき優勝したコーヒーの味が衝撃的にすばらしくて。競り落としたいなと思ったのですが、資金力がないので日本の仲間と共同で買ったんです。それが始まりです。

いろんな国の審査会に行き、生産現場も見てきましたが、2016年からは参加する大会をホンジュラスに絞りました。その年に優勝した農園のロットと翌2017年に優勝したロットはうちだけで競り落としました。量は180kg。キロ4万円くらいです。2年続けて当時の12か国の大会史上レコード額となりました。

どんな環境で育った豆なのか、もちろん訪ねてみました。家族経営の小さな農家が育てていました。私も個人の焙煎屋。向こうも個人。仕事に対する思いがすぐ通じました。手間がかかってもいい豆を作ることが仕事だと思っていて、少しも手を抜かない。そういう信念があってこその味だということがあらためて理解できました。

そこはどんな環境なのですか。

山の中で霧がよく出ます。傾斜地で場所によっては四つん這いにならないと登れません。熟した実はコーヒーチェリーといいますが、一斉には熟さないんです。ですから1粒ずつ状態を見て手で摘む。1本の木から3㎏くらいのチェリーがとれますが、実を割って中の豆を取り出し、水の中で洗いながら選別して乾燥させます。豆が乾いてからも選別は何度も続き、最終的には500gくらいしか残りません。収穫は精製作業の第一歩でしかないのです。

こうした労力に見合った対価を買い手がきちんと支払うことによって、農家ははじめて生活が安定し、設備投資をすることもできます。つまり希望が生まれます。

ホンジュラスのコーヒー豆に惚れ込んだものの、当初は資金力がなく欧米のバイヤーたちの10分の1も買い付けることができなかった。だが、訪ねた先の生産者たちは日本からやってきた小さなロースターにも分け隔てなく接し「僕たちのコーヒー豆をきちんと理解し評価してくれるなら、喜んで分けるよ」と言ってくれた。以後、家族のような交流が続き、辻堂の店にも2年続けて来てもらった。今年はクラウドファンディングで現地の農家を支援する。

 

希望がないことは行動しない理由にならない

スペシャルティコーヒーは、社会貢献性も兼ね備えたコーヒー文化なのですね。

大量生産型のコーヒーも世の中には必要です。でも、行き過ぎた効率化は生産者の健康や環境を脅かす可能性がありますし、安かろう悪かろうになりがち。  コーヒーはワインでいうテロワール(風土性)のように地域で風味が変わります。ですから、スペシャルティコーヒーの世界では豆の購入はマイクロロットとか、ナノロットという少量ずつで行われます。数百キロ、数十キロの単位ですね。圧倒的に少ない量ですけれど、この量なら僕ら個人の店でも買えますし、そのすべての履歴をお客さんに伝えることができます。どんな農家がどんな思いを持って育てたのか。僕らがやってきたのは、結果としてエシカル(倫理的)消費なのだと思います。

国際的な大会「カップオブエクセレンス」や「ジャパンバリスタチャンピオンシップ」では審査員を務める。

 

クラウドファンディングでもホンジュラスのコーヒー農家を支援しています。

今も続くコロナ禍で、世界のスペシャルティコーヒーのマーケットが動かなくなってしまいました。応援してあげたいんですが、僕らのようなマイクロロースターでは買える量に限界があります。生産者の暮らしが成り立たなくなれば、今後、質のよいコーヒーを提供することができなくなってしまいます。苦境を伝え聞いて、なんとか方法がないかと考えたときに思いついたのがクラウドファンディングでした。

ひとまず1コンテナ分3トン、600万円を目標に支援を募ったところ、初日で32%分のお金が集まりました。最終的には141%の846万4495円に達しました。感無量です。思いは着実に伝わっているなと感じています。

「ゆる〜りな人」葛西 甲乙さんへの質問

Q.

私たちが飲んでいるコーヒーってどんなものなんですか?
A.
コーヒーの品質を左右する要素は気候、標高、昼夜の温度差、日照、降雨、土質とさまざまですが、それにも増して大きな要素が、栽培や収穫方法、選別・精製などの技術です。コーヒーの品質は価格に反映されます。ピラミッド構造で示すと、およそ95%がコマーシャルコーヒーと呼ばれる普及品です。このうち65%は下級品、23%が中級品、8%が上級品となります。
これらが店の方針に応じた単価に合わせて使い分けられます。この上に3%程度のプレミアムコーヒーが存在します。いわば特上品ですが、スペシャルティコーヒーはさらに上の品質でコーヒー市場の1%程度でしかありません。

27 COFFEE ROASTERS
神奈川県藤沢市辻堂元町5-2-24 TEL 0466-34-3364
http://27coffee.jp取材日:2020年7月


Profile

葛西 甲乙さん

1971年神奈川県川崎市生まれ。大学生時代から湘南の海でサーフィンを楽しみ、卒業後は辻堂に移り住んで都内に通勤する生活を送る。97年、工場を経営していた父親の廃業を機に実家の不動産を整理し、辻堂の現在地で自家焙煎コーヒーの店を開業。まもなく日本にも登場したスペシャルティコーヒーに魅せられ研究を始める。日本スペシャルティコーヒー協会ローストマスターズ副委員長。国際審査委員としても世界のテイスティング大会に参加。

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