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ゆる〜りな人

選挙権はなくても世の中は動かせる

若き環境活動家が学校を中心に講演を続ける理由

露木 志奈さん(環境活動家)


環境活動家と聞くと、ファイターのようなイメージがある。ところが、取材の待ち合わせ場所に現われたのは、笑顔にあどけなさの残る“お嬢さん”だった。聞けば今年で21歳。活動家と呼ばれるのは好きではないけれど、今の自分を表現する肩書はそれしかないのも確かです、と笑う。

2年の山村留学で体感した物質循環が見える暮らし

環境について意識するようになったのはいつ頃ですか?

幼稚園のときなのかなあ。磯子区に野外教育で有名なトトロ幼稚舎という認可外幼稚園があって、そこに通っていたんです。お母さんが園長先生の方針に惚れ込んでいて。そこのお昼ごはんは園児たちが自分で作るんですよ。薪を燃やして飯盒で炊き、春はそのへんに生えている食べられる野草を採って天ぷらにする。包丁も普通に使いました。毎日がキャンプみたいな感じでした。

かなり変わった幼稚園でしたが、おかげで環境の土台である自然というものが、なんとなく理解できていたように思います。

小学生のときは山村留学も経験されたそうですね。

長野県の泰阜(やすおか)村という、信号もコンビニもない村でした。そこにあるグリーンウッド自然体験教育センターという民間組織が行なっている『暮らしの学校だいだらぼっち』という長期留学に、4年生と5年生の2年間参加しました。

全国各地から来た年齢もばらばらな子どもたちが、ひとつ屋根の下に住みながら村の学校へ通います。自給自足も取り入れ、お風呂やストーブは薪で、自分たちで山から木を下ろして割ります。毎日食べる米や野菜も一部は自給で、調理で出た野菜くずは鶏の餌や生ごみ肥料にします。

エコ・ライフを実践してきたわけですね。

食事が終わったら食器の汚れを必ず布きれで拭き取りました。排水の汚れを減らすためです。過疎の村で、都会のように立派な下水処理施設もありませんから、住民自身も配慮しないといけないんです。

敷地には陶芸家さんの工房があって、だいだらの子も自分で粘土をこねて茶碗を作ります。年に1回登り窯に薪をくべて焼きます。その釉(うわぐすり)はお風呂やストーブの灰。カーボンオフセットという言葉を聞いたのは後年ですけど、物質循環が見える暮らしをしていたのですぐに理解できました。

どれも貴重な体験ですね。

漠然とですが、生きる自信もついたと思います。もうひとつ学んだ大切なことは議論の重要性ですね。知らない子どうしが一緒に暮らし始めるわけですからトラブルも起きます。

そういうときは、子どもたちだけで徹底的に話し合って解決するのがだいだらの方針でした。多数決を取らず全員納得するまで話し合う。夜の12時を過ぎることもありました。

環境教育で有名なバリ島のグリーンスクールで学んだこと

山村留学から戻ってからは。

高校1年の途中から海外留学しました。動機は英語が上手になりたかったから。私、英語の成績がずっと1だったんですよ。候補先を探していたとき、バリ島にグリーンスクールという環境教育で有名な学校があるという情報をお母さんが見つけてきて。

ただ、英語が話せるようになりたいというのは志望動機にならない学校でした。当時の私はまだ環境という大きな枠で世の中をとらえきれていなかったので、志望動機の書類には山村留学のときのことを書き、面接では自然に配慮して暮らすことの大切さを勉強したいとアピールしました。

バリ島にあるグリーンスクール。校舎は竹で建てられている。
世界中から地球の未来を担う子どもたちが学びに集まる。

 

グリーンスクールではどんな学びを得ましたか。

環境問題を肌で実感しました。バリ島にあるゴミの山に行ったときのショックは今もよく覚えています。遠くから見ると小高い山なんですが、近づいてみると山全部がゴミでできている。そのとき思ったのは、このゴミはバリ島だけのものじゃないでしょ、ということでした。世界中から観光客が来るにしても、この量は多すぎる。調べてみると、日本を含む先進国からお金をもらってゴミを引き取っていたのです。知らないということを、あれほど恥じたことはありません。

日本の教科書にもゴミ問題の写真は載っているけれど、地球の裏側はもっとすごいことになっている。こうした構造は人権や飢餓の問題とも地続きであることも学びました。しょうがないでは済まない。今ひとりひとりが何らかのアクションを起こさないと、地球は大変なことになってしまう。そう考えるようになりました。

環境活動に身を投じるにあたり、影響を受けた人はいますか。

グリーンスクールの仲間に、マラティーとイザベルという地元バリ島出身の姉妹がいて、在学中から『バイバイプラスチックバッグ』というNPOを運営していました。レジ袋などを減らす運動です。

じつは彼女たち、法律を変えたんですよ。選挙権はないけれど、署名運動を通じて議会を動かし、使い捨てをなくす法案を成立させました。“世の中に変化を起こそうと思ったら大人になるのを待つ必要はないよ。今すぐ行動することが大事だよ”という言葉に背中を押された気がしました。

もうひとり影響を受けたのが、今や環境活動家として世界的に知られるスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさん。グリーンスクール時代にポーランドのカトヴィツェで開かれたCOP24に参加したときに会ったのが最初です。

 

希望がないことは行動しない理由にならない

“あなた方(国の代表)が話すことはお金のことや経済成長というおとぎ話ばかり。よくそんなことが言えますね”という言葉が有名ですね。2019年の国連気候サミットでの演説でしたか?

それは私が会った翌年の演説ですね。彼女は多くの名言を残しているんですよ。私は前年に開かれたCOP24の会場で“希望がないことは行動しない理由にはならない”という言葉を2つ歳下の彼女から直接聞いて、日本に帰ったら自分も行動しようと決意したのです。

今はどんな活動をされているのでしょうか。

安心安全でエシカル(倫理的)なコスメキットの販売と、環境問題に関する講演です。コスメはグリーンスクール時代からの研究テーマでした。私の妹がナチュラルと書かれた化粧品を使っていたんですが、肌に合わなくて。ナチュラルとか、自然派、無添加の定義ってなんなのかなと疑問に思ったのがきっかけです。

調べてみるとエビデンスが曖昧なものも多いんですね。動物実験や原料のトレーサビリティーの不透明さにもひっかかりを感じました。そしてビジネスモデルそのものの問題。化粧品ってものすごくゴミが出るんです。パッケージもそうですが、使いきらないうちに次の新製品が出て、CMで買わなきゃいけない気分にさせる。そういう構造自体に疑問を覚え、自分で作れる本当の意味で自然でエシカルなコスメキットを企画したんです。

2018年にポーランドで開かれたCOP24も傍聴。左から2人目が露木さん、右隣が環境活動家として世界の首脳を向こうに回して活躍するスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさん。

COP24では、温暖化阻止に世界が合意したパリ協定を具体的に実行するためのルールづくりが決められた。

 

講演を始めたきっかけはなんだったのでしょう。

グリーンスクールを卒業してから、ひとまず大学に入り1年間勉強したのですけれど、考えてみると卒業までまだ3年。一方で社会を見回せば気候変動をはじめ数多くの社会問題が噴出しています。大学は卒業を待ってくれるけど、社会問題は一分一秒を争うものばかり。行動を起こすなら今しかないと思ったのです。

じゃあ、今の私にできることは何か。それは世界中で見てきたことを伝えることだけですが、実績がありません。誰が呼んでくれるかなと考えたとき、おじいちゃんたちの集まりではないなと(笑)。でも気づいたのです。学校という存在があったことを。

私自身も同世代から強い影響を受けたので、若い世代を中心に環境問題について伝えて行こうと学校関係者の伝手を頼って呼びかけました。ちょうどSDGsという言葉が注目されはじめたこともあって、いろいろな学校から講演のオファーをいただくようになりました。

講演は学校が中心。共に未来を生きる同世代に地球環境の現実を伝え、ひとりひとりが今なすべき行動について語りかける。降壇後にもたくさんの質問を受ける。コロナ後はリモート形式を中心に活動を継続。企業からも講演依頼が来るようになった。

 

反応はどうでしょうか。

正直、学校によって人によってもいろいろです。きれいごとだと言われることもあります。でも、社会問題に対してまったく興味のない若者っていないんですよ。

講演をきっかけに、なんらかのアクションを起こし始めた人がたくさんいます。環境活動団体に参加した人もいます。自分が語って帰った後で何かが動き出す。これは何ものにも代えがたい喜びです。

「ゆる〜りな人」露木 志奈さんへの質問

Q.

地球環境のためひとりひとりが今すぐすべきことはなんでしょか?
A.
まずはエネルギーの使用量を減らすこと。今の暮らしは電気を使い過ぎですね。そして、今すぐにでも化石燃料を使わない再生可能エネルギー由来の電気に切り替えることをおすすめします。電力自由化以降、電気は好きな会社から買えるようになっています。肉の食べ方も再考したい課題です。1㎏の肉を生産するには10倍から20倍近い量の穀物が必要といわれます。非効率で、その矛盾は地球環境を悪化させています。3Rの理念は浸透してきましたが、じつは3Rで大事なのは順番。必要のないものは買わない(リデュース)→繰り返し使う(リユース)→再生する(リサイクル)の順で実践するのが最も合理的。結果的にお金も残りますね。

取材日:2021年7月


Profile

露木 志奈 さん

2001年神奈川県横浜市生まれ。小学生時代に長野県で2年間の山村留学を体験。15歳の時、世界で最も環境教育に力を入れている学校として知られるインドネシア・バリ島のグリーンスクールに入学。授業の一環で足を運んだ世界各地の社会問題の現場で、同世代の環境活動家たちの考えと行動力に強い刺激を受ける。
卒業後は慶應義塾大学環境情報学部に進むが1年で休学し、全国の学校を回り環境問題についての講演活動を始める。エコ&エシカルの考えに基づいたコスメキットの企画・販売も事業化している。

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