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障がい者にもっと働き場所を!

チョコレート工房「ショコラボ」の取り組み

伊藤 紀幸さん(一般社団法人AOH 代表理事)


横浜市都筑区、センター南駅から徒歩5分ほどにあるチョコレート工房「ショコラボ」ではスタッフの半数以上が、障がい者で、プロの方々の指導のもと、おいしくてからだによいチョコレートづくりを行っています。その本格的な味は雑誌でも高く評価され、全国のデパートや百貨店などでも大人気。会社を立ち上げたきっかけや思いについて、代表の伊藤紀幸さんにおうかがいしました。

もっと障がい者がいきいき働ける場所をつくりたい

「ショコラボ」をつくったのは、私が47歳の時です。 30歳で障がいのある息子をさずかり、息子が小学生にあがったときの父親参観で「子どもたちが高校を卒業しても就職はできません。できたとしても月給3,000円〜10,000円ほど」と聞いて衝撃を受けました。親亡きあと、この子たちはいったいどうやって生きていったらいいのだろう……と。なんとかしなければと思い、障がい者がもっとよい給料をもらい、いきいきと働ける会社をつくろうと決心しました。

勤めていた銀行をやめ、もっと給料のよい外資系の企業に証券アナリストとして転職し、その後は不動産関連の会社を立ち上げました。そしてようやく2012年11月に「ショコラボ」を開業できたんです。

どんな事業を立ち上げるか迷いに迷った日々

具体的にどんな事業を立ち上げるかを考えはじめ、決めるまで4年もかかりました。 一生懸命つくった資金ですし、事業を一度スタートしたら継続しなければなりません。「みんなのために会社をつくったけれど、経営失敗したから明日からこの職場はありません、ごめんなさい」なんてことは絶対に許されません。

まず、障がい者とともに働くなら、効率性を捨て、利益率の高い仕事でなければだめだと思いました。利益率が高いといえば「粉もの商売」です。小麦粉は安価で保存性が高くロスが少ない。だから、最初はもんじゃ焼き屋をと考えました。もんじゃ焼きは味つけもつくるのもお客さまが自分でやるので、クレームをつけられるリスクがありません。それで妻にもんじゃ焼き屋に修行にまで行ってもらいましたが、最終的には、お客さまの細かいオーダーに応えるのがむずかしく、遅くなれば親御さんに心配をかけることもあると考えて一旦中止することにしました。

「あと残るはラーメン屋か、カレー屋か……」と考えているとき、知人から「カレー屋で悩んでいるなら、いい人を紹介するよ」と、カレー屋を含めたいくつもの異業種ビジネスで成功している人を紹介してもらいました。その方に相談すると、「経営が成り立てば業種は何でもいいんですよね。私だったら、第三次産業は選びません。サービス業は内装費や外装費などにお金がかかり、スタッフに支払う賃金が少なくなり、たいした人数を雇えない。私なら工場(第二次産業)をやります」とおっしゃったんです。

ハッとしましたね。私がめざしていたのは、障がい者をたくさん雇用できて、ある程度よいお給料を支払うこと。それを果たすためには、サービス業ではハードルが高いというんです。カレー屋かラーメン屋か、と同じ第三次産業の中でぐるぐると考え続けて決断ができなかったけれど、なるほど、事業を進めるには、産業分類ごとに考えるんだと学びました。

頭ではなく感性で決めたからこそ続けられる

そんなとき、ワタミ創業者の渡邉美樹さんの講演会にも参加し、「心で感じた、感動からスタートしたビジネスはことごとく成功し、感動なしに頭で考えたビジネルはことごとく失敗した」というお話を聞いて、「そうか、私は今、アナリスト的にいろいろと分析して頭で考えて決めようとしていた。もっと心を使って決めなければ……」と気付きました。

その後、自由が丘で立ち寄ったチョコレート屋さんで、妻に「パパはチョコ好きだから、チョコレート屋さんがいいんじゃない?」と言われ「これだ!」とひらめいたんです。チョコレートなら、「第二次産業」だし自分が好きなもの。頭ばかりで考えると悲観的になってしまいますが、自分の好きなチョコレートをつくる仕事ならやり続けられると思いました。そうして具体的に準備をスタートし、4年間悩んだ挙句、たった半年後には「ショコラボ」を立ち上げることになったんです。

工場内では、20〜50代のスタッフが、毎日元気に働いています。「ショコラボ」の屋号には、「ショコラ+ラボラトリー(工房)」、「健常者と障がい者のコラボレーション」、「プロフェッショナルと障がい者とのコラボレーション」という意味が込められています。

 

5つのHを「アシスト」したいという思い

私たち「ショコラボ」(一般社団法人AOH)は、「5つのHをアシストしたい」という理念を掲げてスタートしました。5つのHとは、Happy(幸福)、Humanity(人間性)、Harmony(調和)、Heart(心)、Health(健康)です。

これを「ヘルプ」ではなく、「アシスト」します。「ヘルプ」とは、上の立場から手を差し伸べる、もしくは何か正解があってそれに誘導していく語感です。そうではなく、同じ目的に向かい、同じ目線でともに頑張っていきたい。サッカーでいえば、メインプレーヤーは現場で働く人たちで、私たち健常者の役割は彼らがよいシュートを決められるよう、上からでも下からでもなく同じ目線から適切なパスを出すことだと思っています。

障がい者スタッフには、就労支援の意味もあり、チョコレートの制作から梱包まで、さまざまな業務を行ってもらっています。 チョコレートは見た目がきれいでかわいいし、工場内には甘い香りただよってつくっていても楽しい。制作から梱包まで行い、それが店舗で売れたり、お客さまから感想の声が届けば達成感もあります。保護者面談では親御さんから、「ショコラボに来てよかった」「ショコラボで働くのが楽しい」と子どもたちが言っているとお聞きしてうれしかったですね。

働くことは生きるよろこびとあたたかい心を育む

お客さまを招いてチョコレートのつくり方をお教えする「ファンの集い」も行っています。小学6年生の家庭科の授業に呼ばれ、チョコレートづくりを教えたこともあります。 障がい者は、周囲からサポートを受けて「ありがとう」と言うことは多いのですが、「ありがとう」と言われる側になることはありません。

でも、人から感謝される体験は、人間が生きていくうえでとても重要なことだと思います。ある障がい者スタッフは小学生に教えるとき、「正直、自分の言っていることを聞いてもらえるかどうかものすごく心配だったけれど、やってみたら、みんな素直に聞いてくれてうれしかったし、自信が持てました」と言っていました。

従業員の7割が障がい者というチョーク製造会社・日本理化学工業会長の大山泰弘さんを訪ねたことがあり、その言葉が心に残っていますが、「禅では、人の究極の幸せは、(1)人に愛されること、(2)人にほめられること、(3)人の役に立つこと、(4)人から必要とされること、とあります。

働くことで『人に愛されること』以外の3つは得られるというけれど、私は一生懸命働くことで、『愛』も得られると思う」とおっしゃっていました。本当にその通りだと思います。働くことで人と関わり、人の役に立つことで自信をつけ、そうした積み重ねであたたかい心が育っていくのだと思います。 私もスタッフのみんなに教えられることがたくさんあります。彼らのすごいところは、自分たちがつくったものが売れたとき、万歳やハイタッチをして思い切りよろこび合うんです。「やったー! 売れた!」と素直に思いを表現する。このよろこびが、働くことの本当の意味であり、人間本来の純粋な姿なんじゃないかと思います。

もちろん障がい者だって純粋なばかりではなく、健常者と同じようにさぼりもするし、けんかもするし、いじわるもします。障がいのあるなしで人を判断することはできません。こうして働いていると、そもそも「障がい者」「健常者」と分けることに意味があるのだろうかとも思います。 「ショコラボ」のスタッフは障がい者であろうと健常者であろうと、ともに働き、よろこびを分かち合える大切な仲間です。今後もみんなで力を合わせておいしくてからだによい、たくさんの人が笑顔になれるようなチョコレートをつくり続けていきたいと思っています。

チョコレート工房「ショコラボ」
https://chocolabo-group.com/

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