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ゆる〜りな人

未来にとって大事なことは、すべて自分の足元にある

地縁コミュニティーの新たなカタチを求めて

小野寺 愛さん(一般社団法人そっか共同代表)


『そっか』は、神奈川県逗子市の森・里・川・海をフィールドにさまざまな活動を展開している団体です。小学生が放課後にのびのび遊べる「黒門とびうおクラブ」。自然遊び中心の海のようちえん「うみのこ」。地域の食材を使って子どもたちが調理から接客、会計まで行なう予約制の「子どもレストラン」。さらには社会人を対象にした遊びの場「大人の海の学校」など、地域ぐるみでユニークな取り組みを続けています。

子育てには安全で温かなコミュニティーが必要

―団体名の『そっか』とはどういう意味なのですか。

足下のことです。音読みすると「そっか」。地元の魅力を再認識するとともに、これからも大切にしようという意味を込めてみんなで名づけました。発見する、という意味もあります。

―そっか!(笑)

私はここへ来る前は東京に住んでいました。夫も私も学生時代からウインドサーフィンを楽しんでいたので湘南エリアが大好きでしたが、住むことを意識したのは子どもが生まれてからです。長女が2歳になった頃、自転車で環状8号を渡る小学生の姿を見かけたんです。

そのとき、わが子も数年後、こんなふうに動くのか?別の選択肢はないんだっけ?という気持ちが湧きました。自分の力で行動圏を広げていく子どもが育つ環境が、このままでいいのかと考えるようになりました。

―都会は危険が多いですからね。

子どもが育つ場はもっと安心できるものであってほしいし、何よりコミュニティーそのものが温かなものであってほしい。自然豊かな場所で野菜を栽培したり、ニワトリなども飼いながら子育てをしたい。そんな暮らしがしたくて移ってきた逗子で出会ったのが、共同代表の永井巧さんです。彼は海のアウトドアのスペシャリスト。放課後の子どもたちとサーフィンやカヌーで遊ぶ「黒門とびうおクラブ」という場を運営していました。長女がお世話になって手伝い始めたことが、そっかを設立するきっかけです。

もうひとり、初期のキーマンに八幡暁さんという海洋冒険家がいます。彼はその後石垣島に引っ越したのですが、そっかの骨格を作ってくれたひとりです。

―そっかの活動は多彩ですね。

とびうおクラブに参加していた母仲間たちと語り合ったのは、この最高の環境を、学校に上がっていない弟や妹たちにも作ってあげたいよね、親子で始めてみようかということでした。そこで水曜日だけ、晴れたら海で遊ぼうという感じで共同保育をスタートしたのです。最初は5、6組でしたが、3年後には参加者が50組以上に膨れ上がりました。

このまま小学校まで海と森で子育てをしようよ、と常設園に発展したのが認可外保育施設の「うみのこ」です。今では20人の雇用を生む事業としても、きちんと成り立っています。認可外なので行政の補助はないのですけれど、活動に制約も受けません。海にもじゃぶじゃぶ入れますし、畑で収穫した野菜にその場でかぶりつくこともできます。

年に一度、監査があります。一見、危険も多そうな自然保育の場ですが、毎回満点をいただいています。毎日の遊びが想定外の避難訓練を行なっているようなもので、3歳児でも浜から避難先の坂の上まで、ものすごい速さで走る力があります。驚かれました。

保育施設「うみのこ」が重視しているのは、暮らしと遊びが育む子どもたちの自主性だ。森・里・川・海が凝縮した湘南・逗子ならではの自然を生かし、楽しいプログラムを実践。社会性も身につく独自の手作り教育を展開している。

 

―認可外だと苦労もあるのでは。

たとえばデッキが朽ちてきたので修繕したいねという話になるんですけど、お金が足りない。でも、保護者の皆さんが自主的にバザーを開いたり作業を手伝ってくれるんですよ。私も永井さんも、よくいえばおおらか。悪く言うと抜けている性格なので、周りが寄ってたかって支えてくれます。あの人たち、ほっとけないということだと思います(笑)。

お金に頼りすぎない社会はどうすれば取り戻せるのか

―お子さんを預かる事業は何かと気も遣うのではありませんか。

説明会のときに「運営が不安定に見えます」と言われたことがあります。私は「実際、不安定です」とお答えしました。ここはみんなで試行錯誤しながら作る子育ての場で、単なる保育サービスではないとお伝えしたくて。

そっか設立時、メンバー3人には共通する思いがありました。20代の頃はそれぞれに海外を旅して過ごし、便利な都会の暮らしと引き換えに失われたものを感じてきました。環境破壊に象徴される社会問題を引き起こしている根っこには、暮らしを自分たちで作ることを手放してしまったことがあるのではないかと仮定しました。

本来、人の暮らしはエネルギーも食べものも、身近な自然から得て、地域の皆で支えあうことで成り立っていました。一方で、効率化のために分業が進み、お金を稼ぐためにお金を使う消費構造が出来上がると、遠くの自然を破壊し、膨大な廃棄物を生んでも、そういうことに気づかずに生活することができてしまいます。資本主義を否定はしないけれど、是正が必要です。衣食住も子育ても娯楽も、自分の手でできるものは取り戻したほうがいい。一人じゃ大変だから、一緒にやりませんか、というのが私たちのメッセージです。

―ピースボートで世界中を旅していらっしゃったそうですね。

大学生時代は通訳のボランティアで。その後、職員として16年勤めました。新卒で就職したのは投資銀行のリーマンブラザーズです。当時から、どうすれば世界は平和になれるだろうと考えていました。世の中を動かしているのはお金だから、その中枢に行けば答えが見つかるかもと就職試験を受けたのですけれど。

面接では、当時まだ概念として新しかった社会的責任投資がやりたいと話したのですが、配属先はヘッジファンドのセールス部門。お金持ちがもっとお金持ちになれるしくみのように感じました。

入社前年に本社があるニューヨークで9・11同時テロがあり、翌年イラク戦争が始まりました。学生時代、一緒にピースボートに乗った仲間が米国大使館前で座り込み抗議をしていて、昼休みに応援に行きました。でもオフィスに戻ると戦争後の株価の予想をする人たちがいて。そうした構造の中に自分がいることがどうにも苦しくて、ピースボートに転職をすることを決めました。

―お金が地球を壊している現実を見たことが、今の活動につながる気づきになったのですね。

逗子に来てからはコミュニティーの大切さも学びました。今は地方でも孤立が進んでいます。なにかあったとき頼れるだけでなく、迷惑をかけあうことのできる関係が大切だと思うようになりました。つまり「人に頼ってもいい社会」です。

たとえば、このあたりでは庭に夏ミカンを植えている家が多いのですが、高齢の方は持て余すどころか困っているんですよ。もったいないねと話しているうちに、分けてもらってかき氷のシロップを作れないかという話になって。子どもたちと一緒にピンポーンと訪ねてみると、どうぞどうぞと取らせてくれて、逆にありがとう、助かったわと感謝されました。

子どもたちがかき氷をおいしそうに食べていると、お父さんたちもうらやましくなりました。夏ミカンの果汁ってクラフトビールの原料にもなるんじゃないかといった話が出て、今度は大人の企画が生まれました。完成したクラフトビールを、夏ミカンを提供してくださった方にお礼としてお届けすると、また喜んでもらえました。

ビール屋さんが搾った残りの果皮にはオイルが含まれています。それを蒸留して作ったアロマオイルを使い、がんこ本舗の企画で『じもとの洗剤』という、逗子オリジナルの優しい洗剤も作りました。子どもたちの活動をきっかけに、新しいつながりが町内に広がっています。

うみのこは逗子市在住の3~5歳児向けの認可外保育施設。いわゆる“森のようちえん”の海版として始まった。

 

PTAも元は地域をよくするコミュニティー活動だった

―一緒に遊んだ子どもたちはどんな大人に育ちつつありますか。

いい大学へ行っていい会社に入ることが幸福の条件だと信じている子は多くないと思います。世の中には多様な幸せがあることを、風変わりな大人たちが背中で見せてきたので(笑)。一方で気になるのが公教育です。これも足下が大事なんじゃないかと思い始め、私自身はPTA活動にも関わるようになりました。

たとえば、副教材も時代と共に変わっていいと思います。理科の栽培学習で使うプランターは、使い捨てプラスチック。全国600万人の小学生の親が、これに2000円近く支払っています。「環境教育に熱心な一方でこれを放置するのは本末転倒だ」と先生方と相談して、卵の殻でできたプランターを採用することにしました。

値段も180円くらい。でも支柱がない。百均で買えば済むけど、そういう問題じゃないよねという話になって。そこで思い出したのが、平均年齢75歳という地元の竹林整備の会。ただ竹をくださいとお願いするだけでなく、5-6年生の環境美化委員も誘い、PTAがサポートしながら一緒に竹林整備をするようになりました。  新しいしくみや人とのつながりは楽しいので、やらされ感もありません。 PTAって本来、地域と学校をつなぐコミュニティー活動として始まったはず。今後も、親子で楽しみながら足元の生態系も大切にする活動を息長く続けていけたらと思います。

「ゆる〜りな人」小野寺 愛さんへの質問

Q.

コミュニティー活動を元気にするにはどうすればよいですか?
A.
人は楽しそうなところに集まります。子どもの活動をするときも、本気で子どもたちのためにと考えるなら自分たちも遊ぶことです。子どものためだとか、親としての義務や責任という意識で参加する活動は、子どもにとっても楽しくないと思います。活性化の原動力はやっぱり楽しさ、面白さだと思いますね。私はエディブル・スクールヤード(学校菜園)の活動もしていて、発祥地の米国バークレーにも研修に行きました。世界的に注目を集めているこの活動のエネルギー源は、畑が大好きで仕方がない大人たちでした。「見てよこの野菜、こんなに根っこが出てるよ!」と感動していると、子どもたちが見せて見せてと集まってくる。教える、教わる関係性ではなく一緒にやる。どんな活動もそういう一体感が大切だと思います。うらやましくなって自分から仲間に入ってくるようなコミュニティー。それが理想だと思います。

取材日:2022年7月


Profile

小野寺 愛さん(一般社団法人そっか共同代表)

1978年神奈川県横浜市生まれ。父親の転勤により小学5‒6年生時代は米国で生活。上智大学外国語学部在学中に1年間米国留学。通訳ボランティアとしてピースボートにも乗る。卒業後はリーマンブラザーズに就職するが、1年半でピースボートへ転職。結婚し子どもが生まれた2年後に東京都内から神奈川県逗子市へ。自然豊かな環境で子どもがのびのび育っていく様子を見て、人と人、人と自然の距離が近い暮らしの大切さを再認識。2016年、同じ思いを持つ仲間と、子どもと大人が共に遊びや暮らしを作る地縁コミュニティー『そっか』を設立。アリス・ウォータースの新著『スローフード宣言』(海士の風刊)も翻訳。

一般社団法人「そっか」
http://sokka.world/

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