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ゆる〜りな人

教育とは、未来へのギフトである

教科学習の枠を超え複合的な学びを目指す進学塾

甲斐 昌浩さん(株式会社LIFE代表取締役/イルム元町スクール代表)


文明開化の歴史とともに生まれた横浜市中区元町商店街。おしゃれな通りの裏手にあるビルの一室に、子供たちが三々五々集まってきた。規模こそ小さいが、熱い指導と確かな実績で定評のある進学塾・イルムの教室だ。

イルムは塾らしくない塾としても知られている。その象徴が受験勉強と直接関係のない分野の専門家を招き、自由な授業を展開する“ギフト”だ。

少年ジャンプで熱く語る塾の先生に憧れ教育の道へ

塾名のイルムには、どんな意味があるのですか。

ILMと書くんですけど、3つの意味を合わせた造語です。ひとつは英語のイリュームという動詞。より輝くという意味です。ふたつ目は中東の古い神学にある言葉で、努力して手に入れる知識という意味。3つ目は映画『スターウォーズ』からです。ジョージ・ルーカスが作った特撮専用スタジオの略称が偶然ILM。映画のエンドロールを見たとき、これで整ったと思いました。

ここで学ぶ人たちひとりひとりが輝き、目標に向かい努力する。そして好奇心や遊び心も忘れない。後付けだけど、うちっぽくなったぞと(笑)。

子供の頃は将来何になりたいと思っていましたか。

学校の先生です。中学の時に通っていた塾に面白い先生がいて。授業も楽しかったんだけど、たとえば新しい少年ジャンプが出ると、お前ら今週号は何がどう面白かったかと聞くんです。

これこれこういうところだというと、違う、お前らは読みが浅い。あのシーンの真意はこうだと、大人の読み方を披露するわけですよ。そういうのがかっこよく見えて。

教員免許をとろうと思ったわけですね。

進んだのは東京学芸大学です。昔の師範学校なので、教育に熱いヤツらがいっぱいいるかなと思ったら静かすぎて肩透かし(笑)。

講義もつまらなくて。同時期に始めた塾のバイトのほうが楽しく、そっちにばかり。単位はぜんぜん取れてないくせに、塾での授業では子供たちに偉そうに話をするわけですよ。ジャンプの話で深く脱線する先生にあこがれていたので。

ところがちっとも盛り上がらない。頭の引き出しの中の蘊蓄の量がどんどん減っていくのに焦りを感じました。自分は人間としてまだまだ底が浅い。やっぱり勉強しなくちゃと思って大学に戻ると、今までつまらなかった講義が不思議と面白く思えたんです。

学問の本質に気づいたということでしょうか。

5年かかって卒業し、ひとまず中高の英語の先生の免許を取りましたが、就職は自分で見送りました。面接の想定問答で、英語の先生を選んだ理由がどう考えても見つからなかった。

それで塾講師のバイトを専任でやることになって。時間ができたので小学生も見ることになったんです。あるとき野生児みたいな子が入ってきました。お母さんはフィリピンの人です。ときどき迎えに来るんですが、課題ができず残されていることを知ると、すごい剣幕でその子を叱るんです。真剣に勉強をしないとお前は生きていけないんだぞと。背負っているものの重さの差を感じました。

小学校は家庭訪問があったり、子供の生活部分を見ることも多い。そこまで関わることに教師としての意義があるんじゃないかと、通信制の大学に入り直して小学校の先生の免許を取りました。

配属はどちらですか。

横浜市内の小学校です。でも1年で辞めました。職員室のくだらない同調圧力に耐えられなくて。僕は子供たちにとってよかれと思ってやるんですが、それをいちいち咎められる。規律を乱すとか、ほかの先生が迷惑するとか。

あるときは子供をタケシと呼んでいたら、さんをつけないさいと校長から怒られました。子供をどう呼ぶかはその子と僕の間の信頼関係の結果であって、一律にさんづけというのも変でしょう。反論すると、大きくいえば人権上の配慮ですとかいわれて。意味不明です。学級会以下でしたね。

辞めてからは塾の世界に戻り教師長や中央ポストをやりました。塾は情熱のある先生がいて居心地はよかったんですけど、現実には塾も塾なりにいろんな問題があります。面白さを感じなくなったのを機に、自分らしい教育がしたいと独立しました。

 

塾は目と手が届く範囲のローカルビジネス

学習塾は競争の激しい世界だと聞いています。

午前中は私立の女子高で非常勤講師として英語を教え、午後から中学校の校門の前でチラシ配りをしました。古くさいやり方ですけど、これって集客の王道なんです。塾は目と手が届く範囲の人にしか貢献できないローカルビジネスで、評価も口コミ。

それと、つねに人間としての熱量を見られています。僕の場合は、話をしてもらえれば絶対にファンになってもらえる自信があります。だって、寝ている間以外は、どうすれば人を説得できるか、授業がもっとよくなるか、しか考えていないですから。

実際、始めて1年半で教室がいっぱいになりました。そこで今の場所を紹介されたんですが、その改装工事を見ているうちに、また悩み始めてしまったんです。

順風満帆なのに、ですか?

改装費用として銀行から1000万円借りたんです。ああ、僕は1000万円のリスクを背負いながら国語算数理科社会を、来る日も来る日も教えるのかと思ったら、広くなった教室がすごく狭く見えてきて。絶望感がのしかかると同時に、大学へ戻った時と同じ空っぽな感じを覚えて。

そのとき、自分らしい教育のようなこだわりはもう捨てようと思ったんです。僕がらしさにこわだると、子供たちは僕の知識を超えられない。むしろ人の知恵を借りようと、自分が気になっていた人に会いに行くことにしたんです。

最初にお会いしたのが北海道で薬剤師をしている方。最近の親はすぐに薬をくださいというけれど、子供には基本的には治癒力があるのでむやみに頼らないほうがいいという話を聞きました。ところが、さらに深い話があって。その方はお子さんが不登校でフリースクールに行っているのだけれど、そういうところも楽園ではない。課題だらけですと悩みを打ち明けられたんです。ひとりで聞くのはもったいない。子供たちを含めいろんな人に聞かせたい。そこからギフトの取り組みが始まりました。

“ギフト”とはどんな意味ですか。

ギフテッド教育というのがありますが、それとは意味が違います。ギフテッドは飛びぬけた才能を持って生まれた天才たちを社会への授かりものと位置づけ、その才能を役立てるには彼らをどう教育すればいいかという考え。

僕のいう教育におけるギフトは、大人から子供への知の贈り物です。教育の定義を大きく広げれば、世の中にはものすごい数の教育のプロフェッショナルがいる。イメージは今のテレビの子供番組です。いい歌だなと思ったら、作詞は宮藤官九郎さんで曲は星野源さんだったり、狂言の野村萬斎さんが出ていたり。エンターテインメントの第一線にいるプロが、子供たちのために本気で才能を提供している。こういうのってギフトだと思うんです。

僕の考えるギフトは簡単。僕にはできないこと、僕の知らないことを知っている凄い人たちを子供たちの前に呼んでくるだけ。たとえば僕には防災教育はできないけれど、キャンプ経験の豊富な人ならすぐにできるでしょう。

イルム元町スクールは、小学1年生から中学3年生を対象にしたプライベートスクール。中学生の高校受験指導とともに、多彩な教育プログラムを用いた能力開発を行なっている。そのひとつが各界の専門家を招いた特別授業のギフト。子供だけでなく大人も学べるイベントとして知られ、ツアーを行なうこともある。

 

塾の枠からはみ出たスケールの授業がギフト

学習塾の本分ではない、という声は出ませんでしたか。

はじめに心配したのはまさにそこです。子供時代に学ぶべきことは教科学習だけはないという雰囲気は社会の中にあるわけですが、その正論は今年、来年に受験を控えた子のママさんたちには説得力がありません。

どういうタイミングで始めようかと迷っていたときがたまたま夏休みで、学校の課題作文に人権があったんです。そうだ、弁護士さんに話をしてもらい、それをもとに作文を書かせればいいと気付きました。

最初のギフト授業ですね。

来てもらったのは女性の弁護士さんですが、ドラマに出てくるようなキレッキレのイメージは全然なく、普通の主婦にしか見えません(笑)。でも、少女時代から正義を愛する人で、検事になりたくて司法試験を受けたそうです。司法修習に行ったとき、目の前に被疑者がいて尋問することになった。やったことは確かに悪いけど、そこにいたる事情もあったことを知って攻めきれなかったそうです。

それを見た担当者から、きみは検事には向いていないねといわれ、人を守るほうの弁護士になった。その話がすごくよくて。子供たちは弁護士バッジを実際に触わり、図柄の天秤の意味についても教えてもらいました。

このときの作文で賞をとった子がいたことから、ギフトは保護者公認となり、自由に人選ができるようになりました。これからも面白い専門家に来てもらい、塾の枠からはみ出るような授業を仕掛けてもらうつもりです。

ギフトは、画家、特殊造形師、美術解剖学の教授、プロカメラマン、女性弁護士、子供ホスピスを増やそうと頑張っている人など、さまざまな分野で信念を持って活動するプロを招いた授業。写真は、大人もはまる「ヤバい図工」。

「ゆる〜りな人」甲斐 昌浩さんへの質問

Q.

なぜ子供は勉強をしなければいけないんでしょうか?
A.
それはズバリ、未来の子供たちのためです。直接的にはもちろん、いま勉強をしている自分自身の視野を広げ、思考力を高めることに役立ちますが、教育は今を生きる世代が後世に贈る知のエッセンスでもあります。そのなかには普遍的な知もあればアップデートしなければならない知もあります。だから世代ごとに中身を吟味し、よりよい知を渡してく必要があるのです。
子供はひとりひとりがその栄えあるランナー。面白いのは、誰かに教えるつもりで学ぶと、すごく吸収できることです。情報の引き出しの数が多ければ多いほど、伝え手個人の信頼は高まります。そんなふうに考えると、生涯学び続けることのできる人になれますよ。

取材日:2020年3月


Profile

甲斐 昌浩 さん

1981年横浜市金沢区生まれ。幼少時はレゴブロックでひとり創作遊びをして過ごす。中学生のとき通った塾の先生の影響で教師を志し、東京学芸大に進み中高の英語教員免許を取得。卒業後、小学校教諭の免許を取り直し横浜市の学校に赴任するが、職員室の空気になじめず1年で退職。塾の専任講師に。2012に独立、中区元町に高校受験とキッズコースのイルム元町スクールを開塾。学習指導の傍ら、各界の専門家を招き授業を行なう“ギフト”を始める。子供たちの好奇心を刺激するプログラムとして評判を呼ぶ。

イルム元町スクール
https://www.illume-edu.com

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