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ゆる〜りな人

ごみ問題は生活者ひとりひとりの課題

眉間に皺の寄りがちな市民運動を、目尻に皺のできる“お祭り”に

平野 リエさん(ゴミフェス532(ゴミニティ)運営委員)


緑が多い歴史の町で、住民の環境意識も高い地域として知られる鎌倉市。だが、どの自治体もそうであるようにさまざまな課題を抱えている。そのひとつがごみの問題だ。ごみの排出はひとりひとりの消費行動の結果。その量は選択したライフ・スタイルによって増えることもあれば、逆に減らすこともできる。市民の立場からできることを考えようと立ち上がったのが『ゴミフェス532(ゴミニティ)』という団体だ。

この指とまれ方式で進む
市民有志のプロジェクト

―ゴミフェス532とはどんな活動団体なのですか。

そもそものきっかけはカマコンという地域活動です。鎌倉にはIT企業も多いのですが、そういった人たちが中心となり、ITの力も使いながら鎌倉を元気にしようという趣旨で結成されたのがカマコン です。

そこでは日頃から鎌倉について考えていること、鎌倉でやりたいことをプレゼンできる定例会があります。その提案に参加したみんながアイデアを加え、よりよい実践的な形に磨き上げる。毎月2〜4組がプレゼンをしますが、一昨年8月は、たまたま3組ともごみや環境についてのプレゼンでした。アイデアを次の一歩にする〈まとめ職人〉と呼ばれる面白法人カヤックの柳澤大輔社長がそれを聞き、“3つともごみについての提言なのだから、ゴミフェスをやったら?”とおっしゃったのが発足のきっかけです。

―お堅くなりがちなごみ問題を楽しく扱おうという感じですか。

そうですね。楽しくないと続かないので、なるべく堅くならないよう敷居を低く、ジブンゴトとして関心のあるものだけ参加するようにしています。ゴミフェス532は、同じ関心がある“ごみ”というテーマの船に乗り込んだ感覚ですね。ただ、船の動かし手は必要。ゴミフェス532の運営ができる人、やりたい人はいますかと聞いたら、手を挙げた人が私を含め9人いました。その9人が運営委員になりました。

最初の顔合わせで行なったのは“そもそもごみのどういうところに関心があって集まったの?”というヒアリングでした。60人もの市民がごみをキーワードに集まるって、そもそも気になるじゃないですか。すると、多くの方がおっしゃったのが海洋プラスチックへの懸念でした。2018年8月、鎌倉の由比ヶ浜にシロナガスクジラの赤ちゃんの死骸が打ちあがりました。解剖の結果、胃からプラチック片が出てきました。死因と直接関係がないという結論が出ましたが、自然が分解できないプラスチックが持つ問題性に、多くの人が気づき胸を痛めたのです。

ごみ問題の解決は行政の役割だが、市民ひとりひとりのライフスタイルに深くかかわる問題でもある。「コミュニティの力で楽しくごみ問題を解決」を合言葉に、誰もが気軽に参加できるアクションなどについてアイデア出しをする。

 

―回収のサイクルから漏れたプラスチックは自然の中へ飛び出し、最終的には海に蓄積されます。

そしてそれはすべて、私たちが消費したもの。ごみというのは経済とライフ・スタイルのしくみそのものなんですね。ごみに関して、鎌倉市ではもうひとつ大きな出来事がありました。今使われている唯一の焼却処分場が2025年に停止し、別な場所に新設されることになっていたのですが、予定地周辺の合意が得られず、白紙に戻ったのです。

鎌倉市では毎年3万トンくらい可燃ごみが出ていて、そのうち1万トンは広域連携協定を結ぶ逗子市が引き受けてくれるそうです。残りは当面、民間の処理業者に委託すると市はいっています。そういった処理費用は私たちの税金から支払われているわけですが、そもそもごみは私たちの暮らしから出たもの。

鎌倉をほんとうに住みやすい町にするには、行政に注文をつけるばかりではなく、住民自身が当事者意識を持ち、ごみに対して具体的なアクションを起こす必要があるのではないか。そういう意見も出てきました。

 

フラットな関係を保つことで
行政にも裃を脱いでもらう

―この種の集まりには、勉強会、協議会、検討会というようにいろんな呼び名がありますが、フェスというのはやはり斬新ですね。

ゴミゼロだから、やるなら5月30日だよねということになりました(笑)。2020年の5月30日はちょうど日曜で、人も集まるだろうと楽しみに準備をしてきたのですが、コロナの拡大が収まらず、オンラインでの開催になりました。それでもいいキックオフになったと思います。

まず、鎌倉市役所のごみ減量対策課の方に来ていただきました。私ともうひとりの実行委員とのW司会でトーク形式にしました。

なぜ講演ではなくトークショーにしたかというと、翻訳が必要だと思ったからです。市役所も一生懸命にやっているんですね。どうすれば税金をあまり使わずごみ問題を解決できるか。そして環境への負荷を抑えることができるかと。計画も練られているのですけれど、それらが市民にちゃんと伝わっているかというと、残念ながらそうではない面もあります。

鎌倉市役所ごみ減量対策課の職員をゲストにしたトーク

 

―行政が使う言葉は何かと堅苦しいですからね。

私たちが間に入って、行政の意図や思いをかみ砕いて伝えようと思ったのです。市民側にも、なかなか聞けない素朴な疑問があるわけで、まとめてキャッチボールする場にしちゃえと。市からいただいた資料を元に私たちがパワーポイントを作成しました。ここは写真で見せませんか、絵も入れましょうよと一緒に練り上げ、お茶でもする感じで参加してもらえる空気を大事にしました。

わかりにくいところは私たちが当日再質問するわけですが、いやいや平野さん、そこはそうではなくこれこれこういう理由で…と、よりやさしく説明してくださる。  眉間に皺を寄せながら、あれはどうなっているのか。これはどういうことなのかと尋問するような形になると、行政の人は裃を脱いでくれないと思うのです。皺を寄せるなら目尻です(笑)。

―鎌倉市からはゴミフェスの協賛や後援を取り付けましたか。

そういったお願いは一切しませんでした。ごみについて問題意識を持つ市民が自発的に始めた、フラットな関係のイベントだという部分を大事にしたかったので。市役所からはお手伝いできることはありますかと聞かれましたが、ゲストスピーカーとして来ていただければ十分ですとお答えしました。

必要になるお金は、資金調達部というチームを作って集めました。神社のお祭りで奉加帳を回す感じですかね。海のものとも山のものともつかない任意の組織ですが、ゴミフェス532は地域をよくしたいという思いで開くお祭りのようなもの。認可を得た法人でないと話をちゃんと聞いてもらえないというのが資金調達の常識なら、そういうことを変えるのも私たちのチャレンジ。今後もこのスタイルで行こうよ、という声が多いです。

子どもたちにも当事者として
ごみ問題に関わってもらう

―展示会もあったとか。

ごみ減量につながる具体的な取り組みをわかりやすく企画しました。ひとつは生ごみを微生物で分解するコンポストの解説です。可燃ごみの約60%は土に還る食品残渣なんですね。そして、その80%くらいは水分。焼却処理に必要なエネルギーのほとんどは、生ごみから水分を蒸発させるために使われます。だったら、私たちの台所の段階で土に還るものと燃やすしかないものをしっかり分け、土に還るものは自宅で処理してしまおうという提案。微生物が分解した生ごみは野菜や草花の肥料として有効活用できます。コンポストは一石二鳥の装置なのです。

2つのチームがそれぞれコンポスト利用を提唱している専門家を呼び、デモンストレーションを準備しました。リアル開催が難しくなったと判断した段階でユーチューブ配信に切り替えましたが、多くの方から評価いただきました。

―子どもたち向けの企画もあったようですね。

ゴミフェス532では教育を3番目の柱に位置づけました。鎌倉は観光の町でもあり、大勢の人たちが鶴岡八幡宮を中心としたエリアに訪れます。近年は食べ歩きも名物で、最後に出たごみをところかまわず捨てていく観光マナーが問題になっていました。

コロナ以後、食べ歩きができなくなり、お店側はテイクアウトに切り替えましたが、そのためのパッケージはすべてごみになります。それらは結局、どこへ行くのだろうという話です。

ごみを本質的に減らすにはどんなやり方があるか。子どもたちとワークショップを行いお店の方へヒアリングをして、最後は自分たちが考えたごみを減らすためのアイデアをお店の人たちに採用してもらうことを目標にしました。

―どんなアイデアが出ましたか。

あるドーナツ屋さんは、蜜ろうラップを採用してくれました。ドーナッツは紙箱に入れることが多いわけですが、子どもたちが“蜜ろうラップを持参したらこれで包んでくれますか”と訊ねところ、快諾してくれたのです。

みんな買うよね?食べるよね?するとごみが出るよね?どうすればいい?この問いかけに子供も大人もありません。ごみ問題というのはじつはシンプル。なのに、世界中が解決の方法に悩んでいる。そこにも教育の大きな可能性があると思うのです」

ごみを減らすためにできるさまざまな取り組みを展開。上/ごみゼロに賛同する市内の店舗を支援するプロジェクト。左下/テイクアウト時の使い捨てを減らすリターナブル食器の提案。右下/生ごみリサイクルを進めるコンポスト&農部会による4種類のコンポスト紹介。

 

「ゆる〜りな人」平野 リエさんへの質問

Q.

ごみを減らすアイデアには、ほかにどんなものがありますか?
A.
じつは環境を謳ったイベントでもごみは少なからず出るものです。言っていることとやっていることが違う大人はカッコ悪いので(笑)、ゴミフェス532ではレンタルで済ませられるものは借り、作れるものはまた次回使えるように手造りしました。スタッフ用のお弁当などもうっかりするとごみがたくさん出るのですが、無印良品のリターナブル弁当箱のサービスを利用したことでごみゼロになりました。洗剤や食材パッケージのフリー化を広げるための量り売りマルシェも開いています。
ごみ拾いに参加すると地域通貨をもらえる仕組みもあり、イベントでも使えるようにしています。環境問題というと、深刻だ、義務としてやるべきだとなりがちですが、おしゃれ、かわいい、楽しかったが動機でもいいと思います。はじめて体験したすばらしいことはずっと印象に残るもの。シフトチェンジにいちばん必要な原動力は、感動と楽しさです。

取材日:2021年11月


Profile

平野 リエさん(ゴミフェス532(ゴミニティ)運営委員)

埼玉県出身、鎌倉市腰越在住。広告営業の仕事の傍ら、90年代から環境問題に取り組むNPO活動に参加。都心で多彩なゲストとトークをする環境イベントを月替わりで企画してきた。結婚を機に鎌倉に住み、子育てと癌を患い軽度の認知症になった母の介護を経験。住民として鎌倉を見るようになり、地域にごみ問題という大きな課題があることを知る。その解決を目指す『ゴミフェス532(ゴミニティ)』の立ち上げに参加。「消費者、生活者の視点から楽しく解決」をモットーに、運営委員としてコロナ禍での活動に知恵を絞る。

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