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ゆる〜りな人

モノ選びの基準は「地球がどう感じているか」

リサイクルとアップサイクルの似て非なる違い

西村 正行さん(株式会社アップサイクルジャパン 代表)


持続可能な社会を実現するため国連が定めたSDGsのなかでも、重要な行動目標に掲げられているのが廃棄物の削減だ。リデュース(Reduce=使う資源量を減らす)、リユース(Reuse=繰り返し使う)、リサイクル(Recycle=原料に戻す)の「3R」で知られるが、大量生産・大量消費の流れを逆向きに変えることは容易ではない。それを可能にする消費運動が、西村さんが取り組む「アップサイクル」だ。

元のものより高い価値を生むのがアップサイクル

―アップサイクルはリサイクルとどう違うのでしょうか。

リサイクルというのは簡単にいえば消費したものの再利用、有効活用です。ペットボトルは溶かして樹脂原料にする。家電品なら分解して金属を取り出す。リサイクルというのは基本的には製品以上の価値を生まないんです。同じものとして繰り返し使うリユースの場合も、最初に買った製品以上の価値にはなりません。

アップサイクルは違うんですよ。人が新たな発想とセンスで手を加えることによって、捨てられたものに再び命が宿ってより高い価値を生み出すことができる。定義づければそういった違いです。

僕はもともと住宅建築の業界にいました。振り出しは見習い大工でした。鋸やノミの練習のために休み時間や仕事の後、現場で出る木の端材を刻んだり組んだりしていました。ある居酒屋さんの施工が終わった時、内装材の余りで作ったティッシュボックスをプレゼントしたところ、とても喜ばれたんです。廃材がもったいないとか、森を守るためといった意識なんかはまったくなくて、ただの腕試し。そういう動機で作ったモノでも、人は感動してくれるんだということを知り、自分もなんだか幸せな気持ちになりました。

最後に転職した会社は工務店でした。ここは現場から出るごみを持ち帰るのですが、短いという理由でただ捨てられてしまう材木がたくさんありました。モノづくりの魅力にはまると同時に、もったいないという気持ちも湧いてきた時期だったので、副業で小さな家具や写真立てなどを作るようになりました。そして、廃材にもう一度命を吹き込むというコンセプトのもと、PEACE CRAFTという店を作りました。

上/アサヒビールとのコラボレーション「森の梢プロジェクト」で作られたヒノキのタンブラー。梢や根元など使われない部位をアップサイクル。 下/同様の未利用材で作られた靴ベラ。

 

―その時点からアップサイクルという考えがあったのでしょうか。

いえ、リサイクルですね。まだ廃材の有効活用という視点でした。ただ、やっていくうちに廃材という呼び名にだんだん抵抗を覚えるようになったんです。作った小物を持ってフリマなどに出店すると、心ない声が耳に入ってくることがありました。面と向かってではないけれど、これって家を壊す時に捨てられたごみじゃないのかとか。流木アートも扱っていたんですが、海へ行けばいくらでも落ちているようなものを拾ってきてお金にしているとか。

フリマっていろんな価値観の方が来るので、そういうネガティブな反応も少なくありませんでした。廃材を活かしたモノに値段を付けて何が悪い。古材は表面こそくすんでいるけれど、中はまだしっかりしているんだぞ。反論したいことは山ほどあって、だからこそ廃材という言葉にこだわり続けたかったのだけど、自分の思いを世の中に伝えていくのはなかなか難しいなあ、というのも当時の正直な感想でした。

そんなときに出会った言葉がアップサイクルでした。きっかけはよく思い出せないのですが、すごく新鮮で前向きな響きだったので印象に残っています。腑に落ちたことは価値創造という考え方。再利用することで前の製品のときよりむしろ高い価値が付く。あるいはまったく違う魅力や社会的な可能性が生まれるものをアップサイクルと呼ぶのだということです。

 

同じ想いを持つ作り手のコミュニティーが欲しい

―全国にたくさんの店舗があります。大きな会社なのですね。

いやいや、全部僕が経営しているわけじゃないんですよ(笑)。アップサイクルジャパンはフランチャイズでもないし、資本でつながっているわけでもありません。同じ想いを持つお店が集まったコミュニティーみたいなものです。

加盟店という呼び方をしていますが、今現在、全国24のショップやブランドが参加していて、僕がここ神奈川県茅ケ崎市で経営している廃材と小物の店PEACE CRAFTもその1軒です。

皆さん業態はいろいろです。たとえばフリーペーパー『UPCYCLE』の創刊号にも登場してもらった清水葵くんは、履き古したデニムで達磨や時計を作っています。彼はもともとプロのスケートボーダーです。デニムはボーダーにとってのユニフォームで、練習してぼろぼろになったものほど愛着があるそうです。それならずっと手元に置いておけるものに作り替えようと縁起物の達磨に縫い付けたところ、そのストーリー性とモノとしてのカッコよさが評判になりました。今では海外からも制作依頼がきています。

甲斐昴成くんという料理人は、雑魚や未利用魚と呼ばれる魚専門の居酒屋をやっています。数や大きさが揃わないとか、見た目が地味だったり風変わりな魚は消費者もなかなか食べようとしないので、市場に出荷されません。二束三文の扱いを受けているのですが、ほとんどは普通に食べられるし、びっくりするほどおいしい魚もたくさんあります。

じつは漁師さんたちはその魅力を知っているのですが、売る人も買う人も見栄えばかり重視して真の価値を知ろうとしないので、結局は港に揚った段階でごみのように扱われてしまう。彼はそんな構造を料理の力でひっくり返してやろうと頑張っていました」

フリーペーパーの『UPCYCLE』では、環境問題の現状もわかりやすく解説している。全国の加盟店のほか湘南地域で環境問題に関わる活動をしている店舗などで手に取ることができる。

 

―どのように仲間を増やしてきたのですか。

立ち上げのときは僕から声をかけさせてもらいました。この人がやっている活動はアップサイクルだと確信したらどんどん誘いをかけていったのですが、ほとんどの人は、アップサイクルってなんですか?という反応でした。SDGsも同じ感じだと思いますが、すでに実践している人は案外そういう言葉を知らない。

自分が大事にしたい価値観や哲学をモノづくりなどの活動に取り入れる中で、アップサイクルにたどりついた。それはそれですごいことなんですけど、みんなばらばらに活動してきたために、想いを力にしにくかったのです。

僕がアップサイクルジャパンを立ち上げたのは、そういう人たちをつなぐプラットフォームがないと、暮らしや消費のあり方は変わらないと思ったからです。

―スタートから4年たちました。反応はどうでしょうか。

今言ったように、最初は僕のほうから、この人はと見込んで声をかけていったのですが、今は違います。僕もアップサイクルをしているんですが参加できますかと、向こうから連絡が来るようになりました。モノづくりをしているわけではないけれど、何か一緒にできませんかという問い合わせも増えましたね。

コロナ以降は働き方とかライフスタイルが急激に変わり、ハンドメイドへの関心が高まっています。PEACE CRAFTではDIYのやり方も指導しているのですけれど、お客さんが増えました。うちに来る方の志向ははっきりしています。ただDIYを楽しむのではなく、廃材でDIYをしたい。廃材を使うと安く上がるからではなく、古びた木で作るほうがカッコいいから。まさにアップサイクルの発想です。

上/ビーチクリーンで集められた海洋プラスチックを集めて圧縮したコースターとトレイ。さまざまなマイクロプラスチックからできているため、ふたつとして同じ商品がない。こうした価値を含めてアップサイクルと定義。
下/デニム達磨。プロスケーターでもあるACRAFTの清水葵さんが制作。

 

買うという選択をするだけで誰もが環境活動に参加できる

―ご自身の暮らしや消費志向に変化はありましたか?

僕個人の消費の指針は変わっていませんね。ただ、選択肢が世の中に増えてきたな、という実感はあります。もともと僕は購買意欲があんまりなくて、服に対するこだわりも薄いのですけれど、この服はリサイクルポリエステルでできていますといわれると思わず買ってしまいます(笑)。思わず買っちゃったといえば、この筆箱なんですが、タイヤのチューブでできているんですよ。カッコいいでしょ。そういう物語に一目ぼれしやすくなりました(笑)。

環境に対する意識の質も変わってきましたね。木っ端がもったいないと思えるようになるまでは、そういうことにまったく意識のない人間でした。廃材の仕事を始めたときも、あなたが僕からモノをひとつ買ってくれると世の中からごみがひとつ減るんですと言ってはきたものの、ほかに何か実践してきたかというと何もできていなかった。地球温暖化や海洋汚染といった問題も深くは認識できていませんでした。

でも、アップサイクルという考え方に出会ってから少しずつ変わってきました。僕らが紹介するカッコいいモノをあなたが買ってくれると、僕らはまた別のゴミを処分場から救済して世の中に活かすことができる。アップサイクルのしくみに参加すれば、誰もが環境活動家になれますと、胸を張って言えるようになりました。

子どものときも、社会人になっても勉強なんてしてこなかった僕だけど、やっとわかったのは、この資本主義はどこかおかしいということ。とはいえ、生きていくためにお金は必要です。これから僕たちが目指すべきは、資本主義の否定ではなく別な資本主義の選択。その意味でも、自分たちの活動が少しは地球のために役立っているかなという実感はあります。この気づきを、これからも大事にして行こうと思います。

「ゆる〜りな人」西村 正行さんへの質問

Q.

どうすればより多くの人がアップサイクルに参加できますか?
A.
まず、何かを買うときにそれがほんとうに必要かどうかを考えることです。買わなくてもじつは困らないのではないのか。1回使ったきりで捨ててしまうものではないのか。同じ商品分野にアップサイクルされたものがあれば、そちらを購入してほしいと思います。アップサイクルの基本的な考えは、消費しながらごみを減らしていくこと。僕の会社にはさまざまな不用品の引き取り依頼がありますが、基本的にはプラスチック製品はお断りしています。木は無垢材ならOKですが合板は引き取りません。僕たちの技術で価値を上げることの難しい素材はダウンサイクルにしかならないからですが、廃プラをみごとにアップサイクルしている専門企業や、化学合成素材の端切れでカッコいい製品を作っているクリエイターもいます。そんな取り組みにも注目し、買い物の選択肢に加えてもらえればと思います。

取材日:2022年7月


Profile

西村 正行さん(株式会社アップサイクルジャパン 代表)

1981年山口県生まれ。住宅建築の業界で働いていたときにごみとして処分される木の端材に注目、活用方法を模索する。前後する形でPEACE CRAFT(ピースクラフト)を設立、それら廃材を家具や住宅のリノベーション、店舗デザインなどに取り入れる事業を続けるなかで、単なるリサイクルではなくさらに価値の高い商品に生まれ変わらせるアップサイクルという概念に出会う。2018年、同じ想い持つクリエイターの全国的なプラットフォーム、アップサイクルジャパンを設立。定期的に発行しているフリーペーパー『UPCYCLE』(アップサイクル)も評価が高い。

株式会社アップサイクルジャパン
神奈川県茅ケ崎市堤582-10(本店)
TEL:0467-52-5311
https://www.upcycle.co.jp

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