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ゆる〜りな人

持続可能な森を未来世代の幸福のために

自然素材の家を普及させることを仕事に選んだ理由

田中 竜二さん(株式会社天然住宅 代表取締役)


かつて家は、木をはじめとする自然が生み出した素材で作られた。時代は変わり、今はコンクリートや化学合成素材による新建材の家が主体。そんな流れの中で、もう一度木や漆喰など自然素材でできた家を普及させようと奮闘しているのが、その名も株式会社天然住宅だ。

無垢材の家は、必ずしも高価というわけではない

―自然素材にこだわった家に興味はあるけれど、値段が高そうで手が出ないとあきらめている人は多いのではないでしょうか。

はい。でもそこは誤解なんですよ。塗装などの加工をしていない木を無垢材といいます。無垢材だけを使って建てた家と、今の主流である合板や新建材の家の坪単価に大きな開きがあるかというと、じつはそうでもないんですね。ひとくちに木といってもさまざまなグレードがあります。実用性と直接関係のない、たとえば木目の珍しさや節の有無などでも木の値段は変わります。こだわっていけばいくほど高い家になりますが、手頃な価格帯の無垢材もあります。そうしたものにも木の持ち味である調湿性や手触り、十分な耐久性があります。

新建材の家だって値段はきりがありません。木の家の場合も、打ち合わせの中で予算にすり合わせていくことができますし、お客様の暮らしへの思いを汲み取って形にするのが私たちの仕事です。

実際、私たちがお客様に示した値段と同じグレードの木の家をよその工務店で見積もってもらったら、そちらのほうが1.5倍ほど高かったということもありました。最近は建築資材全体が値上がりしていて、合板や新建材を使っているから安く建てられるともいえなくなっています。

―価格を抑えるためにはどんな努力をしているのでしょう。

ひとつは部材の規格化。つまり標準化です。作業の手間と、従来はたくさん存在した中間マージンをできるだけ省く。伐採から製材、プレカットまで一貫的に行なうことのできる山主さんと提携してコストダウンを図っています。

木で重要なのは製材後の乾燥ですが、じつは最も時間のかかる作業でもあります。昔は数年かけて天日乾燥させなければなりませんでしたが、今はおが屑や廃材を燃やして出る熱と煙を活かし、乾燥と防虫効果を兼ねたくんえん乾燥という処理を窯の中で行ないます。

一般な高温乾燥の温度は120℃くらい。数日で木が安定するのですが、温度が高いほど木材に含まれるリグニンという精油成分は抜けやすくなります。リグニンは木の耐久性や防虫性を保つ大事な成分なので、私たちは60℃以下の低温で、2週間かけてじっくり安定させます。

合理化は大事ですけれど、その結果、無理が生じたり仕事のクオリティーが下がっては本末転倒です。たとえば、木の値段を抑えるために、あるいは工期を短縮するために乱暴な伐採が行なわれたり、そのしわ寄せが特定の人たちにいったりすることはあってはなりません。フェアではない取引に持続性はありませんからね。

そもそも天然住宅という会社は3つの理念から生まれた組織なんですよ。まず、無垢材で家を建てることで環境の土台である森を守るしくみを安定させよう。そして、無垢材と自然素材で建てた家は人間の五感とも相性がよく、健康や情操面でも安心をもたらします。

さらに私たちは100年、3世代住める家を目指しています。今の日本の住宅の平均寿命って30年から40年くらいなんですね。大量生産大量消費が美徳と信じられた戦後昭和の感覚がまだ続いているわけです。家は人生で最も高価な買い物と言われてきましたが、ローンを払い終わる頃には寿命が来てしまう。それが現状です。

右/真に良質といえる家を手が届く価格で提供するため、標準化された仕様に建主の希望を合わせていく「セミオーダー型住宅」を提案している。 左上/基本は塗装をしない無垢仕上げでの提供だが、床などには希望によって蜜ロウと荏胡麻油を合わせた天然ワックスも使う。壁紙には和紙クロスや布クロスを使用。クロス同士を貼り合わせる接着剤にはでんぷん糊が採用されている。 左下/ビル1階に開設された保育園の施行例。木の手触りと香りは子にも親にも好評。

使い捨てのような住宅は廃棄物としてもやっかい

―もったいないですね。壊された家は廃棄物にもなります。

住宅メーカーの中には自社施設で分別処理しているところもありますが、あくまで希な例で、廃棄まで一貫した責任を持つ仕組みは今の住宅建築業界にはありません。問題はそういう使い捨て的な家ほど石油由来の資材や複合資材が多用されていることです。

合板は新築時こそ強いのですが、たくさんの薄い板を接着剤で張り合わせています。この強度は長続きしません。接着剤の合成樹脂は耐用年数が高くないのです。無垢材のような調湿機能がなく、湿気がこもって劣化が早まります。

壁紙として張るクロス類も塩化ビニール製です。断熱材もグラスウールなど自然に還らない素材。安易に燃やすことも、土に還すこともできません。もうひとつ大事なこと。劣化が早い家というのは愛着も生まれにくいし、飽きられるのも早いということです。

―その点、昔の伝統的な木造住宅は、時代が変わっても流行遅れという感じがしませんね。

かつてはポリシーや哲学がデザインを規定したのだと思います。だから時代が変わってもセンスに古びた感じがしなかった。私たちが使う無垢材は杉ですが、最低でも50年かけて育てています。これくらいかけて大きくなった木は、3世代くらいは優に強度を保ち、もし解体しても柱や梁を古材として再利用できます。いよいよ使い道がなくなっても燃やせますし、伐採後に植えられた苗が後継木として育っていれば、燃やす際に排出される二酸化炭素はゼロにカウントすることができます。

50年育てて100年使う。これではじめて持続可能な建築、持続可能な林業と言えます。住宅建築という仕事を通じ、自然と社会の循環システムを取り戻そうというのが私たちの目標なのです。

―営業活動はどのようにしているのですか。

ほとんどはホームページをはじめとするネット展開です。飛び込み営業はしていません。やみくもに営業をかけても意味はないんですよ。ある意味で、同じ思いを持つ方にしか響かない限定された商品ですので、一般的なセールスとは違う提案をしなければなりません。

―価値観のつながりがカギということは、単なる取引を超えた関係になるのではないでしょうか。

お客様をはじめ、木を育て材木に加工してくれる山主さん、施工を請け負ってくれる大工さんも共によりよい社会の実現を目指す仲間です。大工さんの中には、うちの話を聞きつけ現場を見に来て、こういう大工仕事がしたかったんだとおっしゃって事業パートナーになってくれた方もいらっしゃいます。

今の建築現場には大工さんがほんとうに腕を振るえる場がないんですよ。合理化優先、工期優先で家づくり自体がキット化しています。当社の施工は平均で半年くらいかかるのですが、私たちの数か月後に近所で始まった建売住宅の工事のほうが早く終わり、こちらがまだ外回りしか仕上がっていないのに引っ越しが終わっていることもよくあります(笑)。

ただ、言わせていただくと、私たちの時間の流れのほうが本来の姿。そういう評価も含め、世の中の家に対する価値観をもう一度変えたいという思いがあります。

家の居心地がよいと、外出や旅行さえしたくなくなる

―お客さんはどのように評価してくれていますか。

急ぎません、丁寧にやってくださればいいです、という方ばかりですね。家づくりをきっかけに、ご家族のマインドが変わっていく様子も見せていただいています。うちへ最初に来て下さるのは奥様が多いのですが、女性は子供が授かったのを機に暮らしを見直すことが多いようです。まず食べ物。薬や洗剤。そして衣服の素材。そういう選択を含めた安心安全にこれまで以上に気をつけるようになり、最後に家へ行き着く。

ご主人は優しい方が多く、奥様が望むようにしていいというタイプばかりですが、しばらくするとご主人のマインドも変わります。お子さんと過ごす時間を大切にするようになることも傾向。もうひとつは、今までのように旅行や外出をしなくなる。家のほうが落ち着くし楽しいとおっしゃいます。

より家に愛着を持っていただきたいという思いから、ご希望があれば伐採から立ち会っていただきます。宮城県の山主さんのところまで行き、一緒に森へ入ってご自宅で使うことになる杉を一緒に伐る体験ツアーです。

伐る前に立ち木に手を当て、これから命をいただきますが、大切に使わせてもらいますと挨拶をします。そしてチェーンソーが唸り伐採が始まる。飛び散るおが屑とともにあたりに漂う木のにおい、木が大地に倒れるときの地響きの迫力。皆さん感動し、来てよかったとおっしゃいます。柱や板にする製材作業も見ていただきます。

上/使用する木材は森の管理から伐採、乾燥、加工まですべての行程にエシカル&エコな方法を導入している山主から直接調達。希望があれば建主を山まで案内、伐採や製材にも立ち会ってもらう。 左下/断熱材はニュージーランド産の羊毛をプレスしたもの。 右下/塗り壁に使う材料はホタテガイの貝殻を焼いて粉にした漆喰。漁業から出る廃棄物のリサイクルにも役立っている。北海道産。

 

―ホームページには、次の世代に豊かな自然を引き継ぎたい、ということも書かれています。

私たちは、次の世代を担う子どもたちに負債ではなく資源を残したいと考えています。持続可能なしくみに裏づけられた森林こそ真の自然で、未来の子どもたちの豊かな暮らしを約束する社会共通の資本です。

資本主義と敵対するわけではありません。大量生産大量消費の経済とは別な選択がないと、未来は危ういと思うんですね。今はまだ少数派かもしれないけれど、そういう選択をしようとしている人たちは確実にいらっしゃいます。あのとき決断してよかったと思えるような実績の積み重ねが、次の世代へのバトンになればいいなと思います。

「ゆる〜りな人」田中 竜二さんへの質問

Q.

新築一戸建てでなくても木のある暮らしは楽しめますか?
A.
はい、できます。私たちの会社では新築だけでなくマンションなど集合住宅のリフォームも行なっています。ビルの5階にあるこの事務所も自分たちでリフォームしたもので、壁と床がすべて木の無垢材です。室内で私たちが吸い込む空気の多くは、じつは壁や床を通り抜けたもの。その量は床で7割、壁で2割にものぼるそうです。その空気には建材や内装材由来の化学的な揮発成分、ハウスダストも含まれます。それらを無垢材に替えるだけでシックハウス症候群の原因は大幅に減ります。無垢材には調湿性があるため空気のよどみも全体に改善されます。家具にも化学成分が多く含まれていることが多いので、リフォームを機に無垢材のものに替えることをおすすめします。古い一戸建ての家をリノベーションする場合は、元の骨格構造だけ残して中の造作を無垢材に入れ替えます。お客様の希望を聞きながら個別に提案しています。

取材日:2022年4月


Profile

田中 竜二さん(株式会社天然住宅 代表取締役)

1985年東京都江戸川区生まれ。明治学院大学法学部卒。求人広告を扱う企業で営業職として3年働いた後、父親(田中優氏=現・未来バンク理事長)らが設立した一般社団法人・天然住宅に転職。2019年、組織の株式会社化と同時に代表取締役に就任。自然素材にこだわった住宅建築を通じ、森林や山村の再生、住まいの長寿化と建築廃材のゼロ化、健康向上など、持続可能な社会に必要なアクションの統合化に取り組む。休日に7歳から0歳までの4人の子どもたちと遊ぶ時間がなによりの楽しみ。

株式会社 天然住宅
ひばりヶ丘営業所 東京都西東京市谷戸町3-26-6 加藤ビル5F
TEL:042-439-6262
月曜日~金曜日 10:00~18:00
https://tennen.org

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